シリフ霊殿
Schild von Leiden

口は目ほどに物を言う
 放課後の教室である。
 机の上には部活に行ったと思しき生徒達の鞄が残されているが、人気は無い。
 カーテンの閉じられていない窓からは夕日と風が差し込み、
 時折校庭を歩く下校者達の会話も微かに届いてくる。
 人気の無い教室に、ただ元就だけが佇んでいた。
 まるで小説の一場面のように窓辺に立ち、何をするでもなく校庭を眺めている。
 視界に入るのは三々五々散っていく生徒達と、校庭の隅に植えられた樹木。
 生徒の数人は木の下や校門の傍などで待ち合わせをしているようでもあった。



「よう」
 不意に背中に声がかけられる。
 突然の事に元就はびくりと肩を震わせ振り返った。
「長曾我部……貴様、帰ったのでは」
「ンだよ、忘れモン取りに帰ってきちゃ悪ィか?」
「……いや」
 それならば良い。意味深に呟いて、元就は再び視線を窓へ戻す。
 無事机の中から忘れ物を引っ張り出した元親が、それに目を留めた。
「何か面白いモンでも見えんのか?」
「貴様には関係無い」
「関係無いとか関係ねぇだろ。何か見えるか聞いてるだけじゃねェか」
 試しに元就の隣まで歩み寄り、同じように窓の外を覗いてみる。
 終礼から時間が経っている為か校庭を歩く生徒は先刻より減っていて、
 同様に待ち合わせをしていた人間も殆どが相手を見つけて姿を消していた。
「お、が居る」
「っ!」
 残っていた少数人の中にクラスメイトを見つけて声を上げる。
 最近誰かと付き合い始めたと言っていたから、その人物を待っているのだろうか。
 何でも相手が彼女との関係を公にしたがっていないらしく、
 同じクラスなのに碌に話しかける事も出来ないとかぼやいていたのを覚えている。
「ほら毛利見ろよ、」
「知らぬ!」
 いきなり怒鳴られて、窓の外を指差したまましばし硬直してしまった。
「……え?」
「何故我が#奈々の事を見ておらねばならぬ!我は何の関係も無い!」
「いや、だから」
「今日は偶然眺めていただけだ!もう帰る!」
 言うが早いか元就は机の上の鞄の一つを掴み、本当に踵を返して帰ってしまう。
 残された方は相変わらず妙な体勢のまま状況を把握するのに必死になっていた。



「お前、それってバラしたも同然だろ……」
 窓からは相変わらず夕日と風と、生徒たちの会話が差し込んでいる。



学園元就初書き。だから何でこの位置に初書きが来るんだ……
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