シリフ霊殿
Schild von Leiden

木犀の憂鬱2
 雨が続いているので、最近この人は元気が無い。
 といっても別に塞ぎ込んでいるとかそーいうんじゃなくて、
 単にちょっとしょんぼりしてるって感じ。やっぱ光合成出来ないからかな。
「というか、先生でも雨の日は傘差すんですね」
 保健室の入り口に深緑色の傘が立てかけてあるのを見て言う。
「水を吸えぬのに態々濡れても鬱陶しいだけであろう」
「ま、それもそーですね」
 そしてこの人は今日もペットボトル入りのミネラルウォーターを飲んでいる。
 とはいえ、その量は普段と比べてずっと少ない。
 メラニン色素の無い白い身体が、心なしか細くなって来ている気さえする。
「人間の食べ物じゃ駄目なんですか、やっぱり」
「駄目という訳では無いが、身にならぬ。我らに必要の無い物質が多すぎるからな」
「あー成程」
 確かに植物の栄養っていうとデンプンくらいしか思いつかない。
 他にも要るのかもしれないけど知らない。
「というとつまりこういうのなら大丈夫な訳ですか。観葉植物用の液体肥料」
 元気の無かった眼が俄かに元気を取り戻してあたしを睨む。
「寄越せ」
「……はあ」
 保健室に誰も来なくて良かった。
 ペットボトルの中身に肥料混入して飲んでる所見られたら色々と不味そうだし。
 しかも何だか表情が嬉しそうというか生き生きとしてるから更に。



人外が大好き第二弾
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