シリフ霊殿
Schild von Leiden

ロミオとジュリエット
 ……あー、あー……これマイク入ってる?
 えーマイクテスマイクテス、ただいまマイクのテスト中、テステステス、
 本日は晴天なり本日は晴天なり雨天決行槍雨霰、北条のじっちゃん腰痛悪化ー。
 うん、よし。
 それではこれより『ロミオとジュリエット』を開幕致したいと思います。





 昔々ある所に、っていうか日本なんですが、中国と四国という国がありました。
 まぁこれは国ではなく厳密に言うと地域の名称であって実際はまぁいいか薀蓄は。
 二つの国はとても仲が悪くて、瀬戸内海を挟んで長年いがみあっていました。
 どのくらい仲が悪いかといいますと、
「海賊風情と水軍の違い、見せてやろう!」
「野郎共、丁重にお出迎えしてやんな!何、ちっとばかし乱暴でも構やしねえぜ」
 これくらい仲が悪かったのです。
 ていうか、今現在戦の真っ最中です。
 甲板では甲冑を着けた兵達が互いに槍や刀を手に切り結んでいます。
 その光景はさながら仮面舞踏会のよう。ちょっと比喩が平和すぎましたか。
 とにかくそんな物騒な人込みの中を、雑魚共には目もくれず敵陣めがけて突っ込む一人の若武者がありました。
 名前はロミオ、家督を継いで傾きかけたお家を建て直す、その先駆けの戦でした。
「勝手に妙な二つ名をつけるな!」
 ああほら、黙って突っ走ってないと敵兵にぶん殴られますよ。
 ロミオは敵の本隊めがけて船から船へ飛び移り、鮮やかな戦いっぷり。
 良い結果を収める事が出来れば家督譲りの揉め事も減るというものですから、
 大志を抱く若いロミオ、ここは何としても軍功をあげねばなりません。
「西海の鬼、今度こそ瀬戸海に沈めてくれる……!」
 若干個人的な私怨も入っているかもしれませんがまぁそれは置いとくとして。
 同じ頃、同じように敵の本隊目指して船上を駆ける一人の娘もおりました。
 名前はジュリエット、ロミオの敵軍にあたります。
 そしてまったく偶然にも二人は一隻の船の上で一瞬ですがすれ違ったのでした。
 雑魚兵と同じ服装をしていない二人は、自然と互いに目が行きます。
 ばちり、と視線の交わる音がしました。
「……あ」
「な……」
 瞬間、二人とも雷にでも打たれたかのようにその場に立ち止まってしまいました。
 雑魚兵が二人のレベルに恐れをなして近づいてこないのが救いでしょうか。
 動くどころか言葉一つ交わす事無く、二人は双方から引き上げの法螺貝が鳴るまで見つめ合い続けました。



「一体何だというのだ……!」
 戦から帰った城の中で、ロミオは一人悩んでいました。
 結果自体は引き分けでしたが、将を数人討ち取って成果はまずまずです。
 しかし、彼の悩みはそんな所には無いのでした。
「何を心乱される事がある?相手は鬼の娘ぞ……!」
 まぁ、ロミオとジュリエットというタイトルからして大体の事情はお察しでしょう。
 一目惚れです。
 ただの一目惚れならまぁ大変ねで済むのですが、何と言っても相手は長年の敵。
 しかもこのロミオ実は、ロミオらしくない事に今まで恋愛になど一切興味がありませんでした。
 知ってます?原作のロミオってジュリエットより先に惚れてる相手居たんですよ。
 まぁそんな事はさておき、一目惚れです。
 そして恋愛に疎いロミオは自分が相手に惚れたなどちっとも気付いていません。
「ええい苛々する……!急ぎ四国へ兵を出せ!」
 八つ当たりで出兵する羽目になる兵達が哀れでなりませんが、しかしこれは先方にとっても好都合でした。

 というのもロミオが再び出兵を命じるのとほぼ同時刻。
 ジュリエットもまた自分の胸中に生じた不可解な感情に頭を悩ませていました。
「……兄貴」
 しかしこちらはロミオと違ってくどくどと悩む事はしません。
 思い立ったら即行動派です。しかも、自分のやりたい方向に。
「また厳島に兵出そう!あの殿様ふん縛って間近でじっくり顔見たい!」
「……」 
 どうやら育て方を間違えたと気付いたらしい海賊の親玉は、
 妹の発言を聞いて、部屋の隅でさめざめと二十秒ほど泣いたそうです。



 そんな訳で早くも数日後、両者は再び船の上で合間見えたのでした。
 互いに武器を構え、正面から向き合います。
 今回も雑魚は海賊のアニキが気を利かせて下がらせたので邪魔は居ません。
 見詰め合う事しばし。
「……ふ、ふん、今日の所は退いてやる。首を洗って待って居るが良い!」
「あんたもね!」
 一度も剣戟を交える事無く恐ろしい勢いで軍を退かせる二人。
 当然、二人の間に何があったかなんて察する事の出来ない人は居ませんでした。
 特に妹が嬉々として軍を派遣していた様子を見ていた海賊の頭は尚更です。
 この二人がこんな関係である限り、頻繁に戦が起きるでしょう。
 勝敗がつかないまま戦闘は続けられ、ただ互いの兵と国が消耗していく。
 弱った所を他の国に攻められたらたまったものではありません。
 そんな事になる前にいっそ、と頭は考えました。



 数ヵ月後、
「同盟?」
「人質代わりにうちの妹嫁にして良いから!いやほんっとに!」
「ふん……貴様が是非にと言うなら、飲んでやらん事も無い」
「ああそうですねもうそれでいいから!」
 二人の愛(?)によって長い両家の争いに終止符が打たれたのでした。
 めでたしめでたし。



悲劇?なにそれ
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