あれの姿を見かけたので傍へ近付くと、隣に自分の兄の姿が見えた。
話の内容までは聞こえないが、何やら談笑している事だけは分かる。
兄上に何か言われて、頬を染めながら笑う姿が目に焼き付いた。
……あのような姿、我には一度も見せた事が無い。
(そういえば先日あれを家に呼んだな)
交わした会話を逐一覚えている訳でもないが、少なくとも兄と会話が弾んでいないという事は無かった筈だ。
自分が話を盛り上げる事に不得手であるのは承知している。
短い付き合いでは無いので向こうもそれは重々分かって居ただろうが、
やはり女とは話の弾む人間と居たがるものなのだろうか。
或いは自分は最初から兄に近付く為の手段でしか無かった、とも
(……下らぬ)
どう悩もうと、起こってしまった事実は変えようが無い。
当人が事実を認めた場合は潔く身を引く心算だった。
「#奈々、其方昨日……」
「ああうん、見てたよーあの芸人ホントあたしのツボだね」
「そうでは無い」
「違うの?あっそうそう昨日といえば昨日元就のお兄さんに会ってねー」
「……」
「吐血してるのかと思って駆け寄ったらケチャップ零しただけってオチでさ」
「は?」
「やー恥ずかしかったー、あたしってばそそっかしくていけませんね」
てへ、と冗談めかして自分の頭を小突きながら、頬を染めて笑う。
視線を見返す勇気は出なかった。
実は珍しい嫉妬ネタ