「元就様をご存知ありませんか?」
自室の襖が開けられた直後のこの言葉。
どうだって良いけど皆何で毎回あたしの所来るんだろうな。
あたしは別に千里眼がある訳でも秘密を知ってるほど信頼を置かれてる訳でも、
ましてや元就様の首に紐つけてる訳でも無いんだけど。
「居ないの?」
「はあ……」
主君の考えが読み切れない家臣達には、何処に居るか分からないのに闇雲に探しても無駄という考えがあるらしい。
居なくなるのだってサボりじゃなくて、何処かで策練ってるからなんだろうし。
ただ単にあたしに任せたら元就様がさっさと見つかるらしいと、
その風評だけを頼りに皆はあたしを訪ねてくる。
「しょーがないな……」
振りだけの溜息を吐いて席を立つ。
まぁ頼られるのは悪い気しないしね。
「はい、これ持って」
広くて長い城の廊下で、誰にも見られない様にこっそりそれを手渡す。
「……これは?」
「餅巾着です。これが一番効果が高いの」
無ければ普通の餅でも可。というか餅なら何でも良いや。
「持ってその辺ぶらぶら歩いてたら釣れるから」
「うちの城主は魚ですか」
「いや、本当に釣れたんだって」
やー初めて釣った時はびびったわ。
食べようと手に持ってた餅巾着をいつの間にか至近距離で凝視されてるんだから。
餅だと物欲しそうに傍に寄って来るだけだけど、餅巾着だとそうなる。
あ、しまった、じゃあ普通の餅にしてあげれば良かった。遅いか。
しばらくして常軌を逸した様子で家臣がやって来たので、まぁとりあえず釣るのには成功したんだなと思った。
元就様が割と大食らいって設定もよく見るけどどこからきたんだろう