「あーあーあーあーもー!」
ある程度までは覚悟していたけれど、予想以上だ。
新しく布を裂いて傷口に巻き付けながら、あたしは我慢できなくなって叫んだ。
人払いしといて良かった。
「何ですか今までいつもこんな怪我放置してたんですか」
「侍医を戦場に呼ぶ訳にもいかぬからな」
「呼んでるじゃないですか!」
「……」
黙り込む元就様。
まぁ多分あたしを呼んだのは厳密にはこの人じゃないんだろう。
厳しい戦になる、とかぽつんと出た一言を拡大解釈したある家臣が、
勝手に騒ぎ立てた挙句に万一の為として元就様の名前であたしを呼びつけた。
うん、大体そんな所かな。
少なくともこの傷を見る限りその心配はしておいて正解だったみたいだし。
「……人払いをしたのは貴様か」
「その方が良いと思いまして」
この人の事だから、人目に触れにくい所の傷なんか自分から見せないだろう。
けれども立場上ひん剥いてでも手当てはしなきゃならないんだから、
それならせめて家臣の人の目には触れない所の方が良い。
元就様だって見せたくないだろうし。
「はい、次はその甲冑の袖で隠してる部分です」
「……」
渋るような仕草が見えたので、先回りして釘を刺す。
「今回結構出血酷いんですから、ここで手当てしておかないともちませんよ」
「……」
図星の時は無言で視線を逸らす。つい最近癖だと気付いた、この人の癖。
「大丈夫、上手く隠しますから。
見えるのは精々その頬の傷と、服破いて手当てした左足ぐらいです」
「……ならば、良い」
相変わらず意地っ張りな事だ。
「あ、ただしその他諸々の傷で失血はしてる上に隠すのにも限度がありますから、
追撃には参加しないで下さいね。策だけ練ってじっとしてて下さい」
「無茶を言うな。士気に関わる」
「足怪我してるのに出てこられる方が士気に関わるでしょう。じっとしてて下さい」
「……貴様、態と服を破ったな」
「何の事でしょう。さ、寝てないと傷の治りに響きますよー」
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