シリフ霊殿
Schild von Leiden

愛花
 届かぬと分かっている高嶺の花に、わざわざ手を伸ばす必要は無い。
 手を伸ばして初めて届かぬと知ったら、その場で引き下がるのが良い。
 女など所詮その程度のものだと、無理をして手に入れるなど愚かな事だと思っていた。
 時が経てば儚く萎むもの、それに身命を賭すなど、と。

 否、あれを花に喩えるのがそもそも間違いか。
 あの女は花などには程遠い。
 精々が青々と茂る葉、其の上に乗っている毛虫で良い。
 益にはならぬが害にもならず、煩わしいがわざわざ殺してやる気にもならぬ。
 そのような虫でも手の内にて眺めれば愛でるだけの情も湧こうというもの、
 手の内で見事な蝶になればそれなりの感慨もある。


 ……ただ、その情に何と名をつけるかだけが問題なのだ。



なんだろうこれ
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