「うげ」
元就が何個目かのお代わりを手に戻って来た時、思わずそう言って横を向いた。
「お前、何個目だよそれ」
返事は無い。
尋ねられた人間は既に席に着いて黙々とケーキを食べる作業に戻っている。
仕方が無いので自分で空の包み紙や皿の数を数えてみる事にした。
1、2、3、4、5、6、7、やばいそろそろ吐き気が。
『たまには甘いもの目一杯食わせてやるよ』
そう言ってケーキバイキングに連れ込んだのは俺だが、流石にここまで食うとは思わなかった。
俺は甘味が得意ではないのでコーヒーぐらいしか頼んでないが、
こいつ明らかに俺の分まで元取ってる。
涼しげな目元のイケメンがケーキを大量に食べる様はやはり相当目立つらしく、
周囲の客からかなり視線が寄せられていて、唯の付き添いの俺には正直イタい。
元就も一応それに気が付いてはいるのか、
ケーキを口に運びながら上目遣いでちらと「似合わなくて悪かったな」と言った。
別にこいつが甘いもの好きなのは身内では周知の事実だから構わんのだが、
俺としては目の前の自分を無視して黙々と食い続けられるのはちょっと、と思う。
いや、金の問題じゃなく。
一応ここに連れて来たの俺だし、ケーキ>俺になるのはちょっとなーと。
思いはするもののそんな微妙な心情が元就に伝わる訳も無い。
大体連れて来た時点でこうなるのは大体予想がついていた事じゃないか。
結局の所は連れて来た俺の負けなのだ。
「ほら元就」
「む?」
「ついてる」
ふと指を伸ばして頬についたチョコケーキの欠片を取ってやると、
元就は予想以上に反応して椅子ごと後ろに飛び退いた。
「……何だよその反応は」
「な、何、貴様……っ愚劣な!」
「いや愚劣って……取っちゃ駄目だったのか?」
ついてたから、と言いつつ首を傾げると、元就の顔が何故か耳まで赤くなった。
「なぁ元就、」
「……何でもない!」
叫んで再びケーキを平らげる作業に戻っていく。
耳まで赤いのは変わらない。
「何でもない、ねぇ」
指先についたケーキの欠片をどうすべきか迷って、結局自分の口に突っ込んだ。
甘い。欠片一つなのに口中に甘味が広がるほど甘い。
まぁいいか、たまには。
今度有名店のケーキでも買って来てやろうかと思いつつ、元就に視線を戻した。
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