シリフ霊殿
Schild von Leiden

いじっぱり
 うちの同居人は低血圧だ。
 ご近所では毎朝早起きして日の出を拝んで居るというので有名だが、
 実はその後二度寝しているという事実を知る者は少ない。
 しかも実はあたしが叩き起こすまで起きないという事実を知る者は更に。

 そんな訳でうちの同居人は今朝も絶好の寝惚け眼。
「元就……もとなりー?」
 目の前で手をひらひらと振ってみるが反応なし。
 直立不動のまま微動だにせず、手だけを感覚で動かして歯ブラシを探している。
 先刻は同じようにして顔を洗っていた。
 というか普通、朝顔を洗うのには目を覚ます意味合いが込められていると思うんですが。
「元就」
 反応なし。
「オクラの妖精さん」
 反応なし。
「元就!」
 反応なし。
「今歯ブラシにつけたの洗顔フォームだからね!」
 あ、もう遅いか。





 むっつりとした表情のまま朝食を摂るうちの同居人。
「不味い」
「口の中にフレッシュミントの香りが残ってるまま味噌汁を飲むからです」
 他にもまだ色々残ってるかもしれない。スクラブとか。
 あたしのメイク落としじゃなかっただけましとかフォローすれば良いんだろうか。
「そもそも、本来ならば取り間違えた時点で注意するべきではないのか?」
「だって声掛けたけど反応無かったんだもん」
 気付いたとして素直にあ、間違えた、なんて言う人間じゃないのは百も承知だし。
 だからこそ意地張って最後までそのまま磨いたんでしょうがあんた。
「……二十分で出る。支度を手伝え」
「はいはい」
 いってらっしゃい。
 ところで今手に取った湯飲みは空だからね。



漫画で見たネタなんで実際にはあるまいと思ってたら一度やりました
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