シリフ霊殿
Schild von Leiden

濁り溜り
 戦の度に、自分の中から何かが欠け落ちてゆくのを感じる。
 それは躊躇無く敵を切り倒してゆく為の情けかもしれないし、
 或いは味方さえ策の見殺しにする為の感情かもしれないし、
 或いは単に戦場で恨み事など聞かぬ為の言語機能かもしれない。
 もしかするとその全てで、欠け落ちていっているのは己の自我という事もある。
 人として持ち得るあらゆるものが、情緒が感慨が罪悪感が後悔が関心が、
 采配を振る度に自分から剥がれるようにして零れ落ちていくのだ。



 その『何か』が何であるにせよその何かが欠けてしまった自分は、
 戦から戻ってくる頃には既に今までの自分ではなくなっている。
 一見して変わらないように見えても、欠けた分確実に何かが違う。
 欠落は戦を重ねる毎に増え、次第に自分を自分とは違う何かに変えてゆく。
「お帰りなさいませ」
 もしかすると次にまた戦から帰って来た時、
 自分は出迎えてくれたこの女の喉笛を掻き切ってしまうかもしれない。
 何の情緒も無く感慨も無く罪悪感も無く後悔も無く関心も無く。
 それを知った時、酷く恐怖した。同時に酷く安堵もした。
 嗚呼まだ自分にも恐怖と云うものが残っている、と。



精神汚染・崩壊系ネタは今でも好きです
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