シリフ霊殿
Schild von Leiden

ため息
 音楽は好きだ。
 でなきゃ吹奏楽部になんか入ってない。
 進路を音楽系にするかどうかはまぁちょっとまだ微妙な所なんだけれども、
 音楽をやるのは好きだ。聞くのも好きだ。
 綺麗なのなら尚更。
 という訳であたしはちょくちょくこうして放課後の音楽室に残る。



 部長の音楽は、上手だ。
「リストの曲って弾くのに技術が要る分、表現面は割と適当で良いらしいですね」
「何が言いたい」
「逆にショパンなんかは技術より表現を重視して弾かなきゃいけないとか」
「だから、何だと」
「お上手ですね、リスト」
「……ふん」
 皮肉が分からない程この人は馬鹿じゃない。
 そしてそれにショックを受ける程可愛らしくも無い。
 もしかすると自分でもそれくらい分かってるのかもしれない。
 部長の音楽を聴いた人なら誰だって漏らす一言だから。
『まるで機械みたい』
 実際パソコンに楽曲ファイル作って保存してるし、という言い訳は無し。
 最近は機械の電子音にだって幅が出て来てる時代だ。
 しかも彼の場合は電子音じゃない、生身の人間に演奏させてるんだから。
 それで機械っぽく聞こえるという事はつまり、彼がそう演奏させているのだ。
 全てスコアに忠実に、ミスも無く完璧に。
 美しいけれども何かが足りない、生きた電子音。
 とても上手、でも綺麗じゃない。
 でもあたしはよくこうして部長の演奏を聴きに放課後音楽室に残っている。



「たまにはベートーベンのソナタとか聴きたいですね。そう、月光とか」
「……構わぬが」
「一説にはあれは、恋に浮き沈みする気持ちを描いた曲だとも言いますよ」
「何が言いたい」
「弾いて下さるんですね?」
「……」
 沈黙は否定なのか、それとも。



学園元就の衣装が好きです
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