シリフ霊殿
Schild von Leiden

なりっぽいど
「朝ぞ」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
「何だ貴様またそのような格好で寝たのか、はしたない」
 何で!?
 あたしちゃんとパソコンの電源落として寝たのに!
 何で朝になったら勝手に出てきてんですかお前!
 日輪か!また日輪拝みに勝手に出てきたのかぁぁ!
 それからはしたないって何だ。別に良いじゃないか普段着のまま寝たって。
「つか、百歩譲って勝手に出てくるのは良いとして何で布団剥がすんですか!」
「昇陽の刻限だ。主も来い」
「私遅くまで曲の打ち込みやってて眠いんですが」
「来い」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
 問答無用で首根っこ掴まれてずるずると引きずられていく。
 ちょ、きつい、ヒッキーの鈍った身体にこれはマジできつい!
 つーかこいつ本当にあたしの事マスターだって思ってんだろうな!
 今までお前の歌った曲全部あたしが作ったんだって事理解してるんだろうな!!
 あたしの事主(マスター)って名前の下僕だとか思ってんじゃないだろうな!!!
 いやそんな事愚痴ってる場合じゃないこれ本気で喉潰れるぐえ。
「え、えーと、戸棚にお餅が入ってますよっ!」
 餅に目が無いのを思い出して叫ぶと、服を掴んでいた手がいきなり離れた。
 そのまま重力に従って床に頭を打ち付ける。痛い。
「我が日輪を拝んで居る間に取って来い」
 ……この野郎アンインストールしてやろうか。



 幸いにも餅というのはそう簡単に食べきれるもんじゃない。
 しっかり噛んで飲み込まなければいけない分、完食までに時間がかかる。
 しかも食事中に言葉を発してはならないと普段からの当人の言。
 つまり食べ終わるまでの間は流石のこいつも無言だ。
 よし、今の内に二度寝をば……
「ぐえ」
 ベッドに潜り込もうとした首根っこを再び掴まれる。
 ちょ、今のは効いた。かなり喉にダメージ食った。
「何、元就……」
 振り向くと、餅を一つ無言で差し出された。
 何ですか、わざわざ台所から餅を持って来た貴方の下僕へ労いですか。
 そりゃあ餅好きな貴方からしてみれば最上級のご褒美なのかもしれませんが、
「いやあたし別に餅好きって訳じゃ」
「む」
 更に目の前に突き出される。食えってか。
「む」
 餅を咥えたままじゃ喋れないので言葉は「む」か「ん」のみ。
 それでも何となく言いたい事は伝わる。
 あれだ、前にヒットした映画でこんな男の子出たよね。
 あれは餅じゃなくておはぎの入ったお櫃だったり傘だったりしたけど。
 元祖ツンデレは案外あの辺にあるんじゃないか。

「……はいはい」
 そんじゃ一緒に頂くとしましょうか。



この頃がボーカロイド黎明期だったかと思うとしみじみ
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