シリフ霊殿
Schild von Leiden

世界の約束
「誕生日プレゼントは指輪がいいなぁ」
 滅多に物など強請らぬ筈の女がしみじみとそんな事を言うので。



「長曾我部、買い出しを手伝え」
「は?」
 四六時中床に散乱している何やらを組み立てた残骸を踏み分けつつ言うと、
 長曾我部は何故か酷く間の抜けた顔をして我を見た。
「何だ、その顔は」
「いやお前日曜にいきなり人んち押しかけて用件はそれか?」
「ならばどうした」
「彼女は?泊まりに来てんだろ」
「置いて来た」
「置いて来んなよ」
「阿呆面をして寝ていたものを態々起こしてやる事もあるまい」
「何だそりゃツンデレか?見えない優しさか?」
「それで、我に付き合うのか付き合わぬのか」

「別に構わねえけどよ……何買いに行くって?」
「指輪だ」
 いきなり塗装剤を投げつけられた。
「物騒だな」
「むしろ俺の心に物騒だチクショー!
 ああそうだよどうせ俺はデート初日に劇場版アクエリオン連れてって
 『わー元親君てオタクだったのー?』とかドン引きされたよ悪いかよ!」
「貴様の女性遍歴はどうでも良い。指輪を買いに行く、付き合え」
「ンだよ畜生中学生カップルと思ってたらいつの間にかそういう仲かよ……」
 ぼやきながら長曾我部が腰を上げる。
 単に知人の中で女性の装身具に詳しそうな人間というだけの理由だったのだが、
 引きずり出すのに予想以上に時間を食ってしまった。
 現在の時刻、九時五十分。あの馬鹿は恐らく昼近くまで寝ているだろう。
 とはいえ正午前には全て済ませて帰り着いていた方が良い。
 急ぐに越した事は無いか。
「つか、お前指のサイズとか希望の石とか聞いてんだろうな」
「指など誰でも同じようなものではないのか?」
「お前それ自分の指と俺の指見比べてもう一度同じ台詞言ってみろ」
「そうか……寝ている間にもう一度戻っておかねばならぬな」
 やれやれ、時間が無いというのに。





 石の種類など聞かなかったので、似合いそうな色を適当に選んで買った。
「あ、元就お帰り」
「……起きていたのか」
「すいませんね普段から爆睡娘で。
 ていうか起きたら指にメジャー巻かれてたんだけどこれ何?」
「買うのに必要だと言われたのでな」
「え、買うって何を」
 これだが、と言って指輪を差し出すと、無言で入れ物を乗せた手ごとこちらに押し返された。
「何だ、貴様が欲しいと言うから態々買って」
「いいから。いいから黙って返して来て。
 今ならまだあたしもあんたのいつもの天然って事で笑って済ませられるから」
「誰が天然だ」
「いいから!夕べのはあたしの失言でしたごめんなさい!忘れて!」
 更に言い返そうとすると、弱々しい声で一言ぽつりと言われた。

「どうせあんた、指輪贈る意味なんて知らないんでしょうが……」

「ああ、店員に婚約指輪かと聞かれたのでそうだと答えておいたが」
「なっ……」
「違ったのか?」
 次の瞬間顔面に向けて枕が飛んできた。
 何だ、どいつもこいつも物を投げる事しか知らぬのか。



天然ほのぼの
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