「なあ元就、知ってるか」
「知らぬ、貴様の助言など誰が借りるか。去ね」
「帰って来るらしいぜ。前田の風来坊ならぬ、毛利の風来娘が」
「っ……が!」
「警戒、しといた方が良いんじゃねえ?」
つー事で俺は今すぐ沖の方に出て当分戻らねえから。
「も、元就様……?」
かつてないほど鬼気迫る表情で城へ戻ってきた元就を見て、
家臣一同は何事か起きたのかと背筋を凍らせた。
「……これから客人が来るやもしれぬ」
聞いた事のないほど低い声で、そう一言。
「は?」
「髪の長い、男のような女だ。来たら家臣総出で心を込めてもてなせ。笑顔でもてなせ」
「はあ、しかし」
「我の命が聞けぬと?」
「……いいえ」
何にそこまで怯えていらっしゃるのです。
主の怒りが恐い家臣たちにはそれは聞けなかった。
「それから、我について尋ねられたら奥州まで軍議に出ていて当分戻らぬと言え」
「し、しかし奥州とは先日」
「言え」
「……はい」
家臣の返事に満足すると、元就は自室の奥へ引っ込んだ。
最強ヒロインにあこがれていた時期