シリフ霊殿
Schild von Leiden

コンビニ店員と客
○月○日

 今日もあの人が来た。
 毎週同じ曜日、同じ時間にこの店に来るあの人。
 いつものようにお菓子売り場に直行して、商品を見ている。
「いらっしゃいませ」
 一応マニュアル通りに出迎えたけれど、毎週来ているから何だか変な感じだ。
 ここがコンビニじゃなければ、馴染みの客か常連とでも呼べそうなくらい、
 あの人は毎週きっちりこの店でお菓子を買って行ってくれるから。
 そっとレジを出て、あの人の後ろに立つ。
 あの人は気付かずに棚に並んだデザートを見ている。
「こちら、今週入った新商品ですよ」
 棚の端にあった新商品のカップを出して見せると、少しだけ驚いた顔をした。
 コンビニで店員が話しかけてくる事なんて中々無いから、当然の事かもしれない。
 目が合ったので少しだけ笑いかけると、あの人もつられたのか少しだけ笑った。
 常連さんではあるけれど、あの人が笑ったのを初めて見た気がする。
 少しだけ嬉しそうな表情をして、あの人は新商品をカゴに入れた。
 カゴに入っているのはその新商品と、先週買って行ったモンブランプリン。
 美味しかったんだ。何となく微笑ましい。
「店員、会計を頼む」
 あの人はカゴを私の方に差し出して言った。
「あ、はい」
 私はいそいそとレジに向かった。
 とりあえず、しばらくこのシフトは死ぬ気でキープしようと思う。





某月某日

 店に入っていくと、今日も店員はあの女だった。
 鉢合わせるのは単に勤務時間の問題なのだろうが、
 こうも毎回鉢合わせると向こうの気心も多少知れてくる。
 こちらの目当ての商品も大体見当がつくようになったらしく、
 新商品が入れば向こうの方から知らせてくるようになった。
 たまに知らせが無いので首を傾げていると、好みの菓子では無かったりする。
 またある時は売り切れだと思っていた菓子を、
「いらっしゃるだろうと思って」と店の奥から出して来られた事もある。
 こちらの好みまで知られているという事か。
 惚けているようで案外あなどれない女だ。
「毎週来て下さっている方ですから」
 女はそう言って笑った。
 指示通りにしか動けない者の多いこの手の店で、あのような店員がいる事はとても好ましいと思う。
 ……来週も同じ時間に行けば、また会えるであろうか。



確か「○○と××」のタイトルがついたものは全部カップリングパロディーお題でした
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