シリフ霊殿
Schild von Leiden

最後の懺悔
 城門の近くまで来た辺りで、大将自らが息せき切って走って来た。
 成程手駒が抜けるのがそんなに惜しいのか、と思う。
 治める領地を持たない事は己の想像以上に人手に困る事であったらしい。
「何処へ行くのデスカ、タクティシャーン?」
「高松城へ帰る。決まっておろう」
 後ろは振り向かない。自分はこの地を捨てる事に決めたのだ。
 今少しでも隙を見せれば、この男はどんな手を使ってでも自分をここへ留めておこうとするだろう。
「ノン・ノン・サンデー。アナタの帰る場所はここ、ザビー城だけね!
 アナタはワタシの素敵なタクティシャンデース」
「サンデー、か」
 何かを懐かしむように空を見る。
 彼の微妙な表情の変化など分からぬ男がそれを改心と取り、
 元就へ向けて更に一歩を踏み出した。


「その名は、もう捨てた」


 紅い放物線を描いて、男が崩れ落ちる。
 警戒の対象がいなくなったので、元就は落ち着いて輪刀についた血を拭った。
「貴様の騙った愛など、我の捨て駒共にくれてやったわ」
 吐き捨てるように呟く言葉を聴く者はもはやいない。
「我はただ、人の愛し方を教えてやると言うからついて来たまでよ」
 真新しい骸に形ばかりの祈りを捧げ、今度こそ振り向かずに城門を潜る。
 その表情はいつか見た氷の如き鋭さで、今にも割れてしまいそうに儚い。
「……我が愛するのは、あの娘一人だけで良かったのだ」
 たとえその感情が偽りであれ真実であれ、己には気付く筈が無かった。
 あの男が勝手に真偽を決めてしまったから全てがおかしくなったのだ。
「例え偽りであろうと、あの娘が我の為に笑ってくれたなら、それで」
 許せ、と呟いた言葉は、誰に向けてのものか。



初めてから二番目に書いた元就様だった記憶ですが何でここにあるんだ
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