さあ、何時の事だったでしょうね。
私が物心ついた後で、大殿も兄上様もまだご健勝の頃でございますから……
殿が五つ六つになられた頃だと存じ上げます。
ええ、あの頃の殿はやんちゃでございましたから。
勉学が終わればすぐに城を飛び出して木によじ登るわ川に飛び込むわ、
幼い私はそれはもう毎日はらはらして見ていたのですけれども、
……話が逸れてしまいましたね。
そう、確かその頃の……冷えてはおりませんでしたから、春でしょうか。
殿が日が暮れても城に戻っていらっしゃらなかった事がございまして。
隠れ鬼の鬼をしていた私は、若様が見つからないと泣いて城に戻ってきたのを記憶しております。
初めは城の者たちもいつもの事だと笑っていたのですが、
それが日暮れを過ぎても帰ってこないというので城は大騒ぎになりました。
男たちが総出で山狩りです。
ええ、幸いにしてそう時間はかからずに殿は無事見つかったのですけれど。
その時なのでございます。
私どもが、あの白い狼に出会ったのは。
殿は崖の下で見つかりました。
恐らく何かの弾みで足を滑らせたのでしょうけれど、
よくあの高さから落ちて無事であったものだと今でも不思議でなりません。
はい、傍には大きな桃の花が咲いておりまして。
春の事でしたから、咲いていてもその事には不思議は無いかと思いますが。
その桃の花の下に、殿とその白い狼が眠っておられたのです。
傍の枯れ木を積み上げて、小さなものですが焚き火をしてありました。
火打石も無いのにどうやって火をつけたのか、そもそも狼が火を怖がらないのか、
今になって思えばそれも不思議なものです。
殿が無事にこちらへ引き取られたのを見届けると、
狼はこちらを気にするような素振りをしつつ、そのまま闇へと消えていきました。
その後、狼の姿を見かけたものは居りません。
果たしてあの夜何があったのか、そもそも殿はあの事を覚えていらっしゃるのか、
私から尋ねるのも不躾であるような気がして今でも聞いてはおりません。
ただ一つ思い当たる事があるとすれば、
「見よ、これも我らが慈母のご加護ぞ!」
殿が自らを日輪の申し子と称するようになったのは、そういえばまさにあの日からなのでございます。
大神をプレイした直後に書いた