「元就様」
「何だ」
ぷに。
「長曾我部殿!」
「おうどうした、久しぶりだな」
「すみません、しばらく匿って下さい!」
いきなり鳥に掴まって船におりてきた忍びは、開口一番それだけ言うと何処かへ姿を消してしまった。
「おい、何なんだいきなり」
『え、はあ、いえ、大した事ではございませんが』
闇の向こうから声だけがする。
『ちょっと頬っぺをぷにっとやるお遊びをやったら元就様を怒らせてしまいまして……
現在逃亡中なのです』
「おいコラちょっと待て」
俺まで危ねえじゃねえかそれ。
『大丈夫です、元就様がいらしてもシラをきり通して下さればよろしいですので』
「あのなあお前」
「長曾我部!」
いつの間にか俺の後ろに肩を怒らせた毛利が立っていた。
話し相手はいち早く気配を消している。
「よ、よう毛利」
「貴様、我の忍びを知らぬか」
「え、い、いや知らねえけど」
「嘘だな」
きっぱり。
なら最初から聞くな、というツッコミはこいつ相手にしてはいけない。
「少なくともここにいたことは確かだ。気配が残っている」
「おい」
確かに話はしてたが気配が残ってるって何だ。
お前は物体に残った残留思念でも読み取れるのか?
「なら探してみろよ。居なくても責任は取らねえぞ」
何処に隠れてるかは俺も知らない。
まぁ声が聞こえてるって事はある程度この近くなんだろうが、
曲がりなりにも忍びだ、そう簡単に見つかる所に隠れたりはしてないだろう。
いくら智将っつったって、俺の船の内装全部把握してる訳でも無いしな。
「誰が探すと言った?」
毛利はいつものようにふん、と鼻を鳴らすと、周囲に向けて声を張り上げた。
「出て来い。今なら咎めはせぬ」
それでも静かなままの船内に、今なら、と更に付け加える。
「十数える内に出て来れば、何時も通り夕餉の相伴を許してやらぬでもない」
「本当ですか元就様ぁぁぁ!」
「早えなオイ!」
そこはもう少し粘る所だと思うんだが。十数えるどころか数え始めてもねえし。
つーか、お前らいつも一緒に飯食ってんのか。
「約束ですよ怒らないで下さいよ絶対ですからね!?」
「帰るぞ」
「はいっ!」
……結局何しに来たんだろうあいつら。
一つ目の作品で元親死んだはずだけどまあパラレルということで