シリフ霊殿
Schild von Leiden

日輪様が見てる
「日輪に捧げ奉らん!」
 ああ、今日もあの人の声が聞こえる。
 我らが日輪のご加護めでたき人の、日輪のお力添えを願う声。
 彼は日輪の恩恵を受けて、今日も数多の人々を浄めて回っている。
 といっても実際力を貸すのは日輪じゃなくてあたしなんですが。
 何しろ我らが日輪様は日々下界を隅々まで見下ろすのにお忙しいものでして。
 人間の十人や二十人、千人や二千人浄める程度ならあたしで十分。
「参の星よ、我が紋よ!」
 しかし今日は一体何回あの不思議な祝詞を唱えなさる心算なんだろう。
 力を送ってあげなきゃならないあたしとしてはもうそろそろ草臥れてきたんですが。
 ……あ、やばい、頭くらくらしてきた。
「……え?」
 くらくらしたのは頭だけじゃあなかったらしい。
 盛大に足元が危うくなったあたしはバランスを崩し、隠れ蓑にしていた雲から……

「い や あ あ あ あ ! !」
「!?」



 (中略)



「に人間様、あたしを奉るのは勝手ですけどねえ、
 あんまりあたしをここへ留めておくと、貴方もここも焼け焦げてしまいますよっ」
 それから神威を感じてくれているのは嬉しいけれども、
 三方の上に正座しなければならないのは大分辛い。
 痛いです、三方の縁が足に食い込んでかなりなとこ痛いです。
「……どういう意味だ」
「だってあたしは日輪の精ですから!日輪のお力をお預かりしている身ですから!
 今だって懐には日輪の宝珠がですね……あれ、無い」
「宝珠?」
「えっどうしよう、まさか天から落ちた時に落としたとか?」
「……貴殿が倒れておった場所にも、そのようなものは無かったが」
「そ、そんな…… ああっ、宝珠様があんな所に!」
 あんな所、と指差したのは中天を過ぎたばかりの日輪。
「……日輪?」
「いやいやあれは日輪の光と熱の一部を凝縮させた宝珠でして、
 それをお守りするのが日輪の精たるあたしの務め……
 って、あの宝珠がなきゃあたし日輪の精じゃなくなっちゃうじゃないですか!」
「阿呆か貴様は……」
「いやあああああ自己同一性の崩壊!オーマイグッネス!」
 しまった、日輪の精が日輪以外の神に祈っちゃいけない。



 (中略)



「日輪が二つ……」
「多分一個はあたしが落とした宝珠だと思います……
 宝珠って説明しましたけど要するに日輪の力の一部ですから、とどのつまり日輪の分身なんです」
「ふむ」
 あのそこ、満更でもなさそうな顔しないで下さい。
「考えてもみてみましょうよ、日輪が二つですよ?
 しかも雲の上に置いてきちゃったから本物みたいに天を廻ってるんじゃない訳で、
 つまり一日中沈まないんですよ!?」
「良いでは無いか、夜でも日輪の恩恵を受けられる」
「いやいやいやだから考えてみましょうって!
 日輪が二つってつまり日輪の力が二倍ですよ?光も熱も二倍ですよ?
 そんなもん何日も続いたら地上干からびちゃいますよ!」
「幸い冬が近いな。夏より光も熱も弱い筈、今少し放っておいても構うまい」
 あああこの人絶対今の状況喜んでるううう!
 そっか、日輪様が二つってこの人にとっちゃハーレムなのか。
「えーっとえーっと、そ、それにこのままじゃ貴方あれ、使えなくなりますよっ!
 あれは、あの宝珠の力を使ってるんですからね!」
「あれ?」
「あれですあれえーと、茅葺の牛とか我が本とかそんなやつ!」
「……?」
「えーとえーと、日輪に捧げ奉るやつです!」
「……それは不味いな」
 遅いぃっ!



 (中略)



「ともかく、次の戦までに全て蹴りをつけねばならぬな」
「えーと一番手っ取り早い方法が」
「申せ」
「あたしをあそこまで打ち上げて下されば」
「阿呆か貴様は」
「うぅ……」
 分かってますよう分かってますけど、他に思いつかなかったんですもん。
 だってあたしの力といえば宝珠の力を引き出して使えるだけなんですから。
 空を飛ぶ事も出来なければ念動力で宝珠を引き寄せる事も出来ないんですよう。



 (後略)



リクエスト作品。思いついたところだけ書くとこうなる
前<< 戻る >>次