吐息と共に紫煙を吐き出すと、彼の人は大層顔を歪めた。
「煙草は、お身体に良う御座居ませぬ」
「そうらしいな。巷の噂だが」
「では何故」
「……其方が気にする処では無かろう」
正直な処を云えば、此方とて好きなばかりで煙を吸い込んでいるのでは無い。
然し何より彼女がこの煙を嫌って居るのだ。今日は此れで終いにするとしよう。
「我は酒が呑めぬのでな。代わりだ」
父と兄は酒毒で死んだ。
まるで浴びるように杯を煽り、酒樽が空になるまで呑み続け、其れでも足りぬと毒杯を所望する。
元就には其の様な酔い方は出来なかった。
好き嫌い以前にまず身体が酒を受け付けない。
一合と呑まずに腕が重くなり、杯を持ち上げられなくなる。
せめてもう一口、と思うより先に頭の芯が痺れて意識は遠くなり、
そうして気が付けば床の中で朝日を拝んでいるのである。
酒が嗜めぬのならば煙草を、と煙管を求めたのは何時だっただろうか。
此れも身体には良くないものらしいな、と思った時にふと気付いた。
嗚呼若しかすると自分は死にたいのかも知れない、と。
然し其れを言ったらこの女は恐らく黙っては居らぬであろうから、
「止めて欲しくば、其方が此れの代わりを探して来るが良い」
どうせなら私の所為でお死になさいませ、と云って呉れるのを、束の間期待した。
前のネタとタイトルを対比させてみたけど関連性は全くないっていう