城内で迷ったのかうろうろしている女を見かけた。
聞けば城主へ荷を届けに来たのだが、広すぎて場所が分からないのだという。
このまま彷徨い続けられるのも面倒なので案内をした。
どうやら城自体初めてだったらしく、放っておけばあちこちに気を奪われるので、
二度と見失わないようにしっかりと手を引いて。
そして主君の下まで連れて行き、用があるようですと紹介した。
自分がした事といえばそれだけだった筈だ。
確か。
「ねね、赤飯じゃ!」
「あいよ、お前様!」
それがどうしてこんな事になっているのか。
若き豊臣軍参謀は自分の置かれている状況を把握するべく頭を抱えた。
確かこんな状況は以前にもあった気がする。
ただあの時と違うのは、大変ですねと言って肩を叩いてくれる人間が居ないのだ。
『殿も大変ですね』
思い出した、左近を配下に加えて戻って来た時だ。
あの時も確か三成が友達を連れて来たと言って赤飯を炊くような騒ぎに・・・
「いやー、しかしめでたい!三成が女子を連れて来るとはなぁ」
「待って下さい」
自分は何か作法でも間違えたのだろうか。例えば来客を知らせた辺りで。
いやきっとそうだそうでなければこんな妙な事になる筈が無い。
「三成も遂に室を迎える気になったか。これは祝わずにはおれんなぁ、ねね?」
「勿論だよ。三成もやっとそんな子連れてくるようになったんだねぇ」
「秀吉様、ですからこれはそのような女では」
「さ、赤飯炊けたよ」
弁解をする間もなく目の前に膳と茶碗と箸が差し出される。
やけに早いと思ったら、女の背負っていた風呂敷の中身が小豆だったらしい。
或いは自分が混乱している時間が想像以上に長かったのか。
「おい、貴様も何か言え。さもなければ……」
「美味しいですねぇ〜。うちの小豆をこんな絶品にしていただけるなんて幸せで」
「さ、左近、左近っ!」
生まれてこの方自分から家臣に助けを求めたのは初めてだ。
「え、俺に何か?」
しかし返って来たのは間の抜けた返答が一つだけ。
「秀吉様とおねね様を止めてくれ。
このままではあの女が俺の室だと誤解されかねん」
「違うんですか?」
「なっ」
すいません、と言って左近は一つ頭を掻いた。
「殿が誰かと手を繋いでるなんて初めて見たもんで、俺もてっきり」
「……」
呆然とする彼の隣で、女はいそいそと二杯目の赤飯に手を伸ばしている。
三成はバサラより無双の分かりやすいツンデレが好きでした