立ち上がろうとしたら身体が重かった。
腕を支えに何とか身体を起こそうとしたが、そもそも腕に力が入らない。
代わって頭をもたげたのは声も出ない程の痛みと、眩暈。
おいおい嘘だろ、と胸の内で呟く。
何でこんなに目の前が暗いんだ、まさか左の目までイカレたのか?
眼を閉じても開けても真っ暗なままで、
というか俺は今目を開けているのか閉じているのか(それすら分からない、)
こんな所でこんな事してる場合じゃないだろうと頭の何処かが警鐘を鳴らす。
無様にも地面と仲良くしてる暇なんざねえんだ、今すぐにでも起き上がって大将を叩かないと
「伊達政宗、討ち取ったり!この機に乗じて城を攻めよ!」
誰かの声がする。
誰かって誰だ、馬鹿か俺は敵に決まってるだろう(何ていう名前、だったっけ?)
城を攻めるだって、冗談じゃない。
だって城の中にはまだあいつが、
『ご安心下さいませ、政宗様』
不利な戦に、俺が負けたら、とそう切り出した俺にあいつは笑って言った。
『政宗様がお斃れになった時は、私もすぐに後を追います。
誓って辱めなど受けはしませんから、ご安心下さいませ』
懐にはいつも小刀を持っておりますから、そう、笑って。
違う、俺があの時言いたかったのはそんな事じゃなかった(言えなかった癖に)
何かもっとこう、生きろ、とか、そんな感じの事だった筈なんだ。
なのに何だこの感情は、
それでも俺と一緒に逝ってくれるならそれで、なんて心の何処かで思ってる俺は。
(政宗様、貴方の嫁を嘗めないで下さいませ)
(奥州筆頭の妻を嘗めないで下さいませ)
(一度契ったからにはこの命、貴方様と共に在るものと決めております)
(例え、行く末が冥府であろうとも)
(この魂はとわに貴方様と、共に)
意識が遠のく。
ああ俺も遂にあの世とやらに行く時が来たらしい。
どうあがいたって人間行く先は決まってるんだ、焦る事はないだろうに。
(いや、あったな)
だって落ちた城の中ではお前が待ってくれてる筈なんだ。
折角一緒に居るって言ってくれてんだ、待たせちゃ悪い。
『お傍に居ります、政宗様』
(ああ勿論だ、傍に居ろ、
)
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