シリフ霊殿
Schild von Leiden

葛の葉の陰で
「息災かえ、京極の」
 声をかけられて顔を上げた。
「おや。お久し振りです殿」
「相変わらず愛想が無いのう。土産の一つも持たんとは」
「僕に手土産片手に神社をうろつき回れと云うのですか」
 偶然出くわした相手に手土産を強請られても困る。
 第一素直に用意した所で、会おうとする時に限って顔を見せないのがこの女だ。
 女、であると思う。
 人かどうかと問われれば、少々ややこしい理論を立てざるを得ないが。
「大体うちの賽銭を勝手に使い込んでいる貴女に、何故そんなものを態々上げなくちゃあならないんです」
「紙の束に変えられるよりはましであろうと思うてな」
「それに、僕には貴女への土産物を選ぶような愛想も持ち合わせていないものでね」
「無粋じゃのう。独り身の女子が欲しがるものといえば、男の精気では無いかえ?」
「……」
「おう、良い顔じゃ。良い土産じゃ」
 途端に眉間の皺を深くした神主に、女狐は眼を細めて笑った。
「戯言に決まっておろうが。流せ」
「悪趣味ですよ」
「何とでも云や。永き齢を駆ける身の、これこそ冥利よ」



この世に不思議な事なんて何もないから人外ヒロインがいるのも不思議ではない
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