吊り橋効果だとか、ストックホルム症候群だとかいう言葉がある。
きっとこれもその一つなんだ。
試合後で体温が上がっていたのがいけない。
心拍数が上がっていたのがいけない。気持ちが高ぶっていたのがいけない。
そんな状態で彼女が微笑んだのがいけない。
「……不二、どうした?」
「シャワー室。少し冷やしてくるよ」
「構わないが、気をつけろよ。熱疲労という事もあるからな。
高い温度のものをあまり急速に冷やすと、かえって良くない事もある」
「大丈夫だよ。……本当に、頭冷やしてくるだけだから」
大丈夫、これは恋じゃない。
水道の蛇口を捻って、冷たい水を頭から浴びる。
(静まれ)
背後のタイルに背中をつけると、自分より遥かに冷たい感触が伝わってきた。
もう少し、もう少し冷やせばきっと全部静まる。
体温も心拍数もこの高ぶった気持ちも、全部。
(静まれ静まれ静まれ しずまれ、)
腹黒くない中学っぽい不二が好きです。今でも