シリフ霊殿
Schild von Leiden

眠り薬
 多分、三日目。くらい。
 何がって、徹夜の日数ですよ。
 いや、あたしのじゃなくて。
「トシ」
「あー……?」
「……目が死んでるよトシ」
「ああ……」
 ペンを握ったまま、机の前に座っている。
 座っているだけ。ペンどころか指の一本も動く気配は無い。
 目は開けてる。でも開けてるだけ。瞳孔は開ききってる。(あ、それはいつもか)
 死んだ魚の様な目、なんて表現が洒落にならないね。
 試しに目の前でひらひらと手を振ってみる。反応なし。
 横から手を出してペンを奪い取って、代わりに『土方十四郎』とサインをする。
 ちょっと字体が違うけどまあ、ばれないだろう。
 ていうか、ここまでしても反応がないとは。
「ちょっとでいいから寝なよ。動物は睡眠が必要なもんなんだよ」
「馬鹿、寝てられっか……後は、奴らの本拠地改めるだけなんだから、よ……」
 語尾がちっさくなってってますよ十四郎さん。
 ついでにペンを奪った事に対しても一切関知しておられませんね。
「で?睡眠不足MAXで出動して、御用改めの真っ最中にぶっ倒れて万事休す?」
「……」
 返事に詰まったのか、意識が無いのか。
 どっちにしてもやばいよこれ。



「寝なさい、もう」
 首根っこを引っ掴んで後ろに倒す。
 落下位置にはあたしの膝。
「突入まであと……三時間?くらいあれば皆準備できるでしょ。
 それまで寝てなさい。仮眠仮眠」
「お前な……」
 文句は言うけど、頭は退けない。
 本当に良い加減限界だったんだろう。
「副長補佐を舐めんじゃないよ。チンピラ共統率するくらい訳無いんだからね」
「……チッ」
 切れ長の目がとろんと落ちかかる。
「三時間経ったらマジで起こせよ」
「はいはい」
「頼りにしてんだからな」
「……はいはい」
 おやすみ。



これを書いていた当時土方はマヨネーズ以外ほとんど壊れていない真面目キャラだったんですよ。びっくりですよね
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