シリフ霊殿
Schild von Leiden

赤い目の仔猫
 赤い眼をした仔猫を拾った。
 あれに良く似た、赤い眼の。
「お前、うちに来るかい?」
 尋ねてみたらば手の中でなあ、と鳴いた。
 腹が減っているのかも知れない。
 散歩は早めに切り上げて、家に戻る事にした。



「お前はあの男にそっくりだねえ」
 一心不乱にネコマンマを食らう仔猫にふと話しかけてみた。
 あの男が誰だか分からないのに、人だって返事を返してくれるわけが無い。
 案の定ぱたりと尻尾が揺れただけだった。
「その茶色い毛並みも赤い眼も瓜二つだ」
 ついでに食い意地張ってる所も。食い終わるのが早い所も。
 頭を撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らした。
「何て呼んでやろうか」
 考えるまでも無い。同じ名で呼ぶことにした。



 片付けをしながらふと視線をやる。
 やはり見れば見るほど誰かを思い出されてならない。
「そういえばアイツに最近会ってないねえ」
 酷くこの服に見覚えがある気がする。
 実際は気がする程度の騒ぎではないが、あえてそのラインに留めてあった。
「またどこぞに討ち入ってるのか、どこぞにバックレてるのか」
 あるいはどこぞでくたばっているのか。
「……夜に考え事はしない方が良いってのは、本当だなあ」
 天を仰ぐ。蛍光灯が一つ切れ掛かっていた。
 眼を閉じる。
 頬に暖かい感触。涙なんじゃないかと思った。
「慰めてくれようってのかい」
 なあ、と返事が返ってきた。
 眼を開けるとピンクの肉球。
「顔は勘弁しておくれ。爪を立てられちゃ困るからね」
 苦笑して言うと、すとん、と膝に降りてきた。
 そのままそこで丸くなる。寝る心算であるのか、欠伸までする始末だ。
 果たして先刻のは慰めなのかそうでないのか。
 そういう所まであれにそっくりだ。



「眠いのならそろそろ寝ようか、総悟」
 膝の上から抱き上げて、キスを一つ。
 クッションを一つ拾い上げて、は寝室へと通じる扉を開けた。



 朝起きたら、黒い服を着たあの男が突っ立っていないとも限らない。



立ってるどころか添い寝してそうですが
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