ぷしゅ、とカプセルの密閉が開く音がして実験中の顔を上げた。
今現在作成中のカプセルはいない。カプセルに入っているのは調整中のドールだけだ。
調整の為に態々カプセルに入れておいたドールといえば。
「……七姫さん?」
さん付けで呼んでしまうのは、以前の彼にとっていた態度の名残だ。
当然というべきか、返事はない。
念の為カプセルを見ておこうと踵を返しかけた所で、不意に背後から両肩に腕を回された。耳元にふわふわとした髪の毛が当たるのを感じる。
「おやおや、随分と元気だね」
声をかけても反応はない。何が楽しいのか、私の右耳を甘噛みしたり吸ったり舌で舐めたりを繰り返している。どうにも妙な気分だ。
可愛らしいのに違いは無いが、今までの彼の行動を考えると、その内この耳を食い千切られてしまいそうだ。
とりあえず彼の真意をはかろうと、耳から口を離させて正面から顔を覗き込む。
「どうかしたのかな?」
虚ろな目でただ私の顔を見つめている。
まだ脳の調整が済んでいないのだから当然だ。今の彼には恐らく赤ん坊程度の思考能力しか残っていないだろう。
しかしそんな頭に何が残っているものか、その手はゆっくりと私の首にかかり、少しずつ力を加えようとしている。
大丈夫だよ、そんなに警戒しなくてもいい。私はもう君をいじめる事はない。
君ももう嘆の同類だ。悲しむ事は何もないよ。
「一明」
「う……?」
名を呼ぶと、びくり、と反応して、私の首を絞めていた手の動きが止まった。どうやら名前に反応する程度の知能は残っていたらしい。
自分の行動を認識していなかったのか、伸ばした右手を不思議そうに見つめている。
「さあ、今はまだもう少し眠っておいで」
大きな身体を引きずるようにしてカプセルまで連れ戻し、元通り中に寝かせる。しばらく頭を撫でてやっていると、やがてすやり、という寝息が聞こえて来た。
「……この調子では、調整が済んでも嘆には会わせない方がいいだろうか」
裏設定だけが膨らみ続けて全部放り出した七姫先生