シリフ霊殿
Schild von Leiden

03.閑話・岩峰舟
「彼は何か用事でもあったのですか?」
 朔夜と入れ違いに研究室に入ってきた舟が、朔夜の様子を見て首を傾げた。
「いいや、彼のいつもの癇癪だ。気にしなくて良いよ」
「そうですか」
 恐ろしく無感動だ。朔夜とは正反対に、舟は基本的に他のドールに興味が無い。
「ところで午後からの実験ですが、試薬が足りなくて」
「どれどれ……ああこれは、『外』に取りに行かないといけないな」
「では今の内に持って来ておきますね」
「大丈夫かい?いつも通り優夜に頼んだ方が良いと思うんだが」
 舟は調整の段階で脳に影響が出たらしく、右半身が上手く動かせない。『外』へ出すのは危険だと思うのだが。
「失礼ですね。私にだってこの程度の仕事は出来ます」
「そうかい。なら、死なないように気をつけて行っておいで」
 苦笑しながら発したこの軽口を、私はその時何と思って発したのだろうか。



このシリーズの肝な鳥
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