「また新しいドールを増やしたのか」
棘のある言い方だ。
優夜が涼太を連れて出て行ってから数十分も経っていないのに、もう新入りの気配を嗅ぎ付けたらしい。鋭いことだ。
「ああ、一体だけだが新しく作ったよ」
嘘を言っても仕方がないので、私は努めて無感情に答える。朔夜はそれに触発されたように、より一層感情を露にした。
「先日作ったばかりだろう!何故こんな短期間に……」
「実験の規模を少し大きくしたからね。人手が足りないんだ」
「それで実験の時間をドール作成に割いていては本末転倒だ。材料の調達にしても、」
「朔夜」
試験管に試薬を注ぐ手を止めて軽く睨む。
「正直、二人作った程度では追いつかないくらいなんだ。追いつかない分は君達一人当たりの仕事量を増やして賄っている。君だって本当なら、こんな所で私相手にごねている暇は無い筈なんだが?」
少し厳しい調子で正論を述べると、ぐ、と言葉を詰まらせて黙った。
言い返せなくなった時点で彼の負けだから、それ以上無意味に問い詰める事はしない。
そもそも私を怒らせる事は彼の本意ではないのだ。作成時間や材料云々というのも建前に過ぎない。
本音はただ彼が、私が彼以外に寵愛の対象を持つのが気に入らないと、それだけの事なのだから。
「朔夜、いいかな?」
身振りでこちらに来るよう促し、俯きがちの顎を軽く掴んでこちらを向かせる。
指の腹で優しく顎の下を撫でてやると、瞳から剣呑な色が僅かに消えた。
「いつも言っているが、私の愛はコップの水ではないのだからね。他のドールが何体いようが、君への愛情が減るような事は無いよ?」
諭すように言って聞かせるが、これはただの気休めだ。この程度で朔夜が満足することは少ない。
「……貴様も、知っているだろう」
朔夜の震える手が私の右手に添えられる。
「貴様の愛情とやらが減りはしないのは分かっている。だが貴様と違って私には、もう他に縋れるものは……」
冷たい指先を絡め、切なそうな表情で頬擦りをされた。やれやれ。
朔夜はとても優秀なドールだが、私への精神依存が強すぎるのが珠に瑕だ。
元々ドールという存在への嫌悪感が強かったらしく、そこへ私がドールとしての教育を施したものだから、醜い屍となった自分を受け入れてくれるのは主人たる私だけと勝手に解釈されてしまった。予想外の結果だが、こうして宥めて落ち着かせることが出来る内は無理に調整を行う必要も無いだろう。
「朔夜」
「ただの我侭なのは分かっているが、それでも私は、私だけを見ていて欲しい……!」
何よりこうして私を求めて擦り寄ってくる彼は、とても可愛らしいので。
「朔夜、もう少しこちらにおいで」
不安そうに縮こまる背中に腕を回して、そっと抱きしめてやる。
死人らしい冷たい体温が伝わってくるが、生憎と生者の体温などここ数年で忘れてしまった。ゆるゆると背中を撫でていると、強張っていた朔夜の身体から少しずつ力が抜けていくのが分かる。
「君は本当に手がかかるね。私が態々こんな事をしてやらなければならないのは君だけだよ」
「私……だけ……?」
「そうだよ。甘えたくなったらまたおいで」
朔夜夢は切ない方がいい。と思う