「・・・やはり人間の考える事はよう分からぬ」
咽返りそうな程の香りに包まれて、元就はようようそれだけ発した。
広いとは言い切れないこの屋敷にそれでも主が自分の為にしつらえてくれた部屋は、
今日に限って何故だか大量の花々で埋もれていた。
聞けば、他の式神に頼んでまで方々から集めさせたのだという。
「まーまー、日頃の労いのつもりなんでしょうよ」
「労い?労いが何故花なのだ」
女子でもあるまいし、花を愛でて喜ぶような趣味は無い。
更に言うならば畳張りの床を埋め尽くす程の花々が醸し出す香りは、狐の鼻には少々強すぎる。
大量の花粉に負けてくしゃみが一つ出た。
「さー、俺様も人間じゃないし人の心の奥底まで分かる訳じゃないし?」
「役立たずめ」
「ご主人様、お花好きでしょ。贈って喜ばれる物って花しか思いつかなかったのかもよ」
「・・・確かに、花を嫌がる人間は余り居らぬようだがな」
それにしては限度を越えている気がするが。
「後、単に旦那が笑ってるとこ見たかっただけって可能性もあるかな」
文句を言いつつも僅かに綻んでいる元就の顔を覗き込みながら、佐助はからかい半分に言った。
笑顔の溢れる場所