シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 担任の先生って担任じゃない先生よりも給料良いんだっけ。
 まだ新米といってもいい教師歴の癖にそんな馬鹿な事を考えてしまう。
 だってねぇ、こんな青二才がクラス担任なんて出来る訳ないでしょ普通は。
 うん、普通は。



「何ですかこの3年B組ってのは」
「主の受け持つ高等部学級の名よ」
「何であたしがクラス担任なんてやらなきゃいけないんですか」
「是非もなし」
「答えになってません」
「異動、デアルカ……」
「ぶん殴りますよ?」
 あたしの手の中には異動通知、そして目の前には学園理事長。
 名前は織田信長、通称魔王。いやそんな事はこの際どうでもいい。
「何ですかこの3年B組とやらの面子は」
「是非もなし」
「何でもそれ言えば片付くと思わないで下さいね」
 理事長に対して何たる言葉遣いだとかそんな事は言われないんだ。
 だってあたし何でか理事長殿のお気に入りだから。それでこの大抜擢なのかな。
 いやいやそんな事もこの際どうでもいい。
「何でこんな妙な面子ばっか揃ってんですかこのクラス」
「是非もなし」
「もういいです貴方にまともな説明を期待したあたしが馬鹿だった」
 面子その1、「高等部を代表する不良」伊達政宗。
 面子その2、「鬼の剣道部エース」真田幸村。
 面子その3、「現代に蘇った忍者」猿飛佐助。
 面子その4、「はた迷惑なカリスマ」長曾我部元親。
 面子その5、「氷の面の生徒会長」毛利元就。
 他、沢山。一応妙な通り名までついてる方々だけピックアップしてみました。
 とにかくこの学園を代表する変人共がこのB組に揃い踏みしている。
 そしてそれを統括するのがこのあたし、#奈々、と。
「主が居れば奴らも大人しくなろう」
「何ですかそれあたし生贄ですか」
「金平糖をくれてやろう」
「いらねーよそんなもんあたし幾つですか」
 そんなもん喜ぶのはあんたんとこの蘭丸君ぐらいのもんです。
 つーかまさかマジでボーナス金平糖にする気じゃないだろうなこの男。
「学級委員の毛利には既に話を通してある。存分に働くが良いわ」
「しかも拒否権ナシときたもんだこの人は」
 一度でいいから死ぬ程ぶん殴ってやりたいこの魔王を。
 「ぶるわぁぁぁぁ」とか理事長室中に響く声で叫ばせてやりたい。



 あたしが必死で拳を押し留めていると、こんこんと理事長室の扉がノックされた。
 どうやら毛利君が来たらしい。生真面目なことだ。
 今日も制服を校則通りきっちり着こなして、優等生の見本みたいな立ち姿。
「先生」
「あーはいはい、今行く」
 仕方がないので傍に置いておいた荷物を手に理事長室を後にする。
 (給料はきっちりもらってるんだし、エスケープするのも生徒達が気の毒だしねぇ)
「#奈々」
 扉を閉める前に理事長に声をかけられた。
「はい?」
「今宵はモツ鍋ぞ」
「はいはい」
 あんたん家で夕飯食えって事ね。
 いや、奥さんとも蘭丸君とも仲良いしいいんだけどさ……あの保健医がな。
 モツとか絶対興奮してハァハァ言いそうなんだもんあいつ。



 扉を閉めて教室へと足を向けると、後ろからてこてこと足音がする。
 前を歩くあたしの一歩半くらい後ろを毛利君が歩いているらしい。
 年功序列を忠実に守ろうとしているらしく、
 歩調のゆっくりなあたしを追い越さないようちょこちょこ歩くのが微笑ましい。
 氷の面とか言われてるけど、結構可愛い所もあるじゃあないか。

 ……うん、担任、ちょっといいね。




新学期
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