シリフ霊殿
Schild von Leiden

好きだったかもしれない
「取り留めの無い雑学ですが」
 人間というのは生命の危機に陥ると、本能的に子孫を残そうとするのだそうだ。
 具体的に言うと性欲が励起される。
 これは男性の多い軍隊等に於いて同性愛が発生する要因の一つでもあり、
 古来より従軍慰安婦やそれ専用の部隊が存在したのは、倫理的見解はどうあれ必要に迫られての事に他ならない。
 長く戦場に身を置く、それすなわち常に本能的に励起された欲求と闘

「……#ナナ」
「何でしょうか、ロックオン・ストラトス」
「その話、何で俺の目の前でいきなり始めたんだ?」
「毎晩のように私の部屋を訪れる貴方を見たらふと思い出したのです」
「……」
『フラレタ!ロックオン、フラレタ!』
「振られてねえよ!」
 思わず相棒の球体端末を怒鳴りつけてしまった。
 態々そんなものを抱えて来る辺り下心が無い事の表明の心算だったのだが、
 この対人感情に疎い少女にはどうやら通じていなかったようだ。
 ……或いは逆に見透かされすぎているのか。
「袖を振ってはいませんが、動機が不明瞭なので不可解ではあります」
 淹れて来たコーヒーのカップをロックオンに手渡し、自身もカフェオレのマグカップを手にその傍に腰掛ける。
 少なくともそんな事が出来る程度には彼女はロックオンに、そして彼が自分の傍に居るという事態に慣れていた。
 その点、まだ望みが無い訳では無いと思う事が出来る。
「動機、ねぇ……」
 あるにはあるのだが、言えばそれこそ先刻の雑学と同等に捉えられかねない。
 勿論期待しないといえば嘘になるが、頭から性欲処理目的と思われるくらいならいっそ我慢し通した方がましだった。
「無いといけないもんか?」
「この場における数少ない判断材料の一つですので。
 無ければすなわち無意識、本能的に行っている事と解釈させていただきますが」
「分かった待ってろ、今考える」
 コーヒーを一口飲んで難しい顔をする。言葉を探しているのだ。
 自分の好意を明確かつ彼女にも理解出来るように伝えられる言葉を。
「俺はただお前さんと会って話がしたいだけだ」
「仰る意味が分かりかねます」
「顔見られりゃそれで良いんだよ」
「尚更分かりかねます。そもそも私の顔を見たいと思う理由が明確で無い」
「……お前さん、最近ティエリアに感化されたか?」
 感情が薄いのは元からだったが、理屈っぽさに磨きがかかった気がする。
 二言目にヴェーダを持ち出さないだけまだましだが、理屈と正論を盾に淡々と相手を追い詰める様が彼にそっくりだ。
「ティエリア・アーデですか。
 マイスターとしての性能はともかく、彼の人となりに感化されるべき点は見当たりませんが」
「ほら、そーゆーとこ」
「……どういう所ですか。指摘するならば具体的にお願いします」
 感情に疎い人間が理屈を身につければ自然とこうなるという良い見本かもしれない。
 彼等がソレスタルビーイングで受けてきた教育の内容までは知らないが、
 ここで育った子供達には妙にこんな具合の子供が多いように思う。
 フェルト然り、#ナナ然り。組織への執着度からしてティエリアもそうだろうか。
 彼女等から聞いた両親の話からするに、肉親に愛情を注がれた経験は薄そうだ。
 少なくとも人との触れ合い方や感情の出し方など学ぶ暇も無かったのだろう。
 それが現在のこの不器用さに直結しているのだとすれば、何とかしてやりたいと思う。
 例え大きなお世話だと言われても。
「……#ナナは、好きな食べ物とかあるのか?」
「唐突に何ですか」
「ちなみに俺はジャガイモが好きだ」
 訳が分からない、といった表情でロックオンを見つめる#ナナ。
「お前さんにだって好きな食べ物ぐらいあるだろ」
「忘れました」
「……そうかい」
 フェルトはチューブ入りの携帯食だと言った。それしか食べた事が無いと。
 ティエリアは更にそっけなく栄養が摂れるものだと言い捨てた。
「それが何か?」
「いいや?……お前さんが一番可愛いなと思ってな」
「先刻から話題が唐突過ぎます」
「そっかー忘れたのかーと思っただけだ」
「……はぁ」
「まぁ、忘れただけなら少しずつ思い出していけば良いだろ」
 笑いながら肩を抱き寄せると、カフェオレが零れますと文句を言われた。

「そういやお前さん、俺が来た時いつも飲んでるけど……好きなのか?」



無感情系キャラが好きです。ティエリアとか
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