シリフ霊殿
Schild von Leiden

あの頃僕は若かった
 幸村について思い出すといつも記憶は庭だ。
『おかーさーん』
 泣きじゃくる幸村の手を引きながら、庭から母親を呼ぶ。
 あたしの記憶の中の風景は何時もそこから始まる。
『おかーさーん、ゆきがまたボールふんでこけたぁ!』
 新品の筈なのに泥まみれで地面に転がったサッカーボール。
 絆創膏を貼った上から更に傷を作った膝小僧。
 あたしの記憶は何故だかそこから動かない。
 母さんが幸村とあたしを見て何と言ったのかも、あのボールと膝小僧がどうなったのかも、
 何故だかあたしの脳内で再生される事は無いのだった。
 どうしてだろう。
「母さーん」
 庭から家の中に戻れば何か思い出すだろうか。
「母さーん」
 握ったままの幸村の手を放せば何か思い出すだろうか。
 泥だらけの古いサッカーボールを蹴飛ばせば、膝小僧の絆創膏を剥がせば、

「母さーん、幸がまたボール踏んでこけたー」

 或いは何とかしてこの馬鹿弟の精神年齢を成長させる事が出来れば。



学園幸村はサッカー部と聞いて、こんな感じかなと
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