シリフ霊殿
Schild von Leiden

調理師、鎌を持ちて
 例えば食事の時。
 様々なメニューが選択出来る中で、手に取るのは大抵洋食だった。
 アジアの料理は海老だの魚だの素材の原形を留めているものが多くていけない。
 稀に洋食でもグリルチキンなど出される時があって、その場合はチューブ入りの携帯栄養食で凌ぐ事にしている。
 生物を形が残ったまま食べる人間が理解出来ない。
 彼等には生きる為に他の生物を殺しているという自覚があるのだろうか。
 否、恐らくこちらの観念の方が他者とずれているのだろう。
 自分が死ぬ時はきっと宇宙の何処かで爆発して四散して欠片も残らないだろうから、
 生物の形を残している内は、未だ生きているという可能性を捨てきれないのだ。
 バラバラになってしまえば嗚呼もう生きては居られまいと諦めもつく。
 だから。



 (君がそんな綺麗で居たのがいけない)



 銃弾一つ喰らっただけの彼女の身体はそれは綺麗なもので、
 血を洗われ瞼を閉じられ、全くただ眠っているかのようにそこに横たわっていて、
 けれども確かに生命活動は停止していて、淡い期待など抱いてはならなくて、
 だから、

「……さようなら、#ナナ」
 まるでトレーに乗った挽肉のように彼女の身体を刻んで、刻んで、刻んで、
 彼女だと分かる断片が一つも残らないように、誰の為でもなくただわたしのために

 この世から、欠片も残さず居なくなって欲しかった。 



 口元に飛び散った肉片を舐めると生臭いレア・ステーキのような味がした。
 これで彼女と一つに、などと戯けた事を言う気も無いけれど。
「……ぅ、く」
 彼女だった大量の血と肉片に塗れて、私はやっと、彼女の死を悼む事が出来た。



価値観の相違系ヤンデレ好きです
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