シリフ霊殿
Schild von Leiden

ここは風の通り道
 暇だ。
 暇だなぁと声に出して呟いてしまうほどには、少なくとも。
 第一暇じゃなかったらこんな所にいる訳がない。運動神経は昔から良くはない方なんだから。

 こんな所……木の枝の上。

「暇だなぁ」
「そうだな」
 私が暇なのは今日が仕事休みで、しかもこれといってやりたい事もないから。
 なのに何で隣から今一番忙しくしてなきゃいけない奴の声が聞こえてくるんだ。
「おめーは暇じゃねぇだろいサボリ魔が」
 とりあえず突っ込んでみる。ろくな返答は返ってこないだろうけど。
「はっはっは、今日は日曜だぞ?余程の事がない限り仕事は休みだ。サボリ魔などと言われるのは心外だな」
 ほらね。
「軍人は大衆の為に不眠不休で働くのですとかほざいてたのは何処の誰だ」
「ふむ、皆目見当がつかんな」
「てめェだろうがよ」
 今度は手加減無しに裏拳チョップ。
「……わ、私は立派に責務を果たしている最中だぞ」
 嘘つけや。
 コブ作った頭撫でてるだけの癖して。いや、殴ったの私だけれども。
「ほーう、例えば?」
「常に民衆の傍に有り、些細な異変も見逃さないという……」
「木を見て森を見ずって言葉知ってる?」
 民衆って私一人の何処が衆なんだきちんと人の群れ見てろやこの馬鹿。
 案の定っちゃそうだけど。
「今頃中尉が血眼だねーこりゃ」
「中尉の話はするな……」
「せずにいられようか馬鹿大佐」
 大人二人、木の上。近いうちに絶対枝折れる。折れて落ちる。
 落ちたら普通に下敷きにしてやるこの不心得者が反省すればいい。
 かといってこれしきで懲りるほど利口な人間でないのは傍にいる私が一番よく知ってたりするんだけども。
 あ、ヤベェじゃあ救い様ないじゃんこいつ。

「とりあえず貴方だけでも落ちたらどうです」
 にっこり笑って。
 とん、と押してみた。


 ……あ、隣の枝に飛び移りやがったこの野郎つくづく可愛くない。



そういえば鋼アニメ結局見なかったなあ
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