「いいわねぇ」
例えて言うなら子供のような、それも隣の子供のお菓子を羨ましがる幼子のような、
そんな無邪気と羨望の眼差しでもって、彼女は俺を見る。
正確に言うと、俺のぱっくり割れたその傷口を。
「いいわねぇ人間って、こんなに脆くて」
これ以上無いような正確さとスピードで縫合してくれながら。
「私の身体もこれくらい脆ければ良かったのになぁ」
俺は何も返事をせずに、黙って治療されている。
例えば今無事な右腕で思い切り切り付けたとしたって、彼女には傷一つつかない。
彼女はそういう身体だから。
「どう思う、沖田君?」
「……」
「無視は良くないわよぉ」
「……天人って、皆そんなに丈夫なんですかィ」
「人間より丈夫な天人ならいくらでもいるけれどねぇ。私達は特別だったみたい」
「へぇ」
「それでも死ねない訳じゃないのよぉ?とぉっても難しいけど」
宇宙船の事故、だったと思う。
宇宙でも指折りの強靭な肉体を持つ彼女の一族は、事故で一晩にして滅びた。
彼女一人を残して。
「やっぱりどんなに進化しても進歩しても、死なないなんて事は無いと思うの」
「……」
「ただ、今のままの私じゃ難しいだけでね」
「……」
「だから私はこうして研究しているのだものね」
あれから彼女は人間になる為の研究を続けている。
研究は着実に進んでいるようで、
「見て沖田君、髪の毛伸ばせるようになったのよぉ。時間が経つと勝手に伸びるの」
少しずつ、彼女の身体は人間に近づいてきている。
そしてまたそれを嬉しそうに俺に見せてくる。
髪は銀色で眼は紫色で、でもまあ多分染めたって言えば判らないだろう。
「後は味覚と細胞の免疫力と、感情を作る脳信号かしら」
当たり前だ、人間になる為にしてきた研究なのだから。
「感情の理解には少し苦労しそうだけれど、別にいいわぁ。
肉体さえ完璧ならいいんだもの。多分、脳はこのままでも大丈夫よ」
「……でも、まだ闇医者は続けてんですね」
「だってサンプルはいくつでもあっていいんだもの。
沖田君のその傷もさっきデータに加えておいたわぁ。面白い血液構成よねぇ」
『死にやすい』身体を手に入れるためにしてきた研究なのだから。
「……ねぇ沖田君、私が」
「感情も一応やっといた方がいいんじゃねェですか。病は気からとか言うし。
病死の確率とか高まるかもしれませんぜィ」
「……」
「何なら俺の、サンプルにしてもいいですけど」
「……意地悪ねぇ」
俺の言葉を聞いて、彼女が少し悔しそうに笑う。
多分、俺がどうして自分の言葉を遮ったのか考えているんだろう。
『感情』が判らないこの人には多分、それこそ死ぬまで判らない事かもしれない。
俺がその言葉の先を絶対聞きたくない理由なんて。
友人の創作キャラをお借りしてヒロインにしました