シリフ霊殿
Schild von Leiden

ティンカーベルの死骸
 サンタクロースって全世界の子供達の夢だと思ってた。

「のに何であっちの子が靴下下げててアンタが下げてないのォ?」
「俺がそんなモン信じるように見えるかよ」
「いや、見えないよ見えないけどさあ」
 明らかにあっちの子の方が実年齢上っぽいんだもん。
「去年枕元に置いといてやったら本気にしたんだ。ほっとけ」
「……いい上司ねぇ」
「ウルセェ」
 あたしが寄越されるのが不思議な位。



「あたしは黒のサンタクロースです」
 サンタクロースには二種類いる。
 良い子の所に来てプレゼントを置いていく、赤いサンタクロース。
 悪い子の所に来て何かを奪っていく、黒いサンタクロース。
 ちなみに地域とかサンタ個人の性格によって差はあります。
 どっかじゃ炭を置いていくって聞いたんだ。
「まぁあたしはバイトなんで、詳しいことは知りません」
 とにかくリストにあった子の家に行って、何か奪って来いって言われただけ。
 マニュアルそれだけだよ、酷くない?絶対そのうち問題起こすよあれは。
「という訳で、何か下さい」
「フン。好きに持ってけ」
「いや、あんな妙な本いらない」
 そんな指差されたって、背表紙の文字すらあたしには読めませんから。
 どうせ本ならあたしに読めるの下さい。ソリの上で読むから。
「ウチにあるのはあんなもんだぞ」
「マジで?アンタらどんな生活送ってんのよ」
 本と、後は……あらら、共用のモンとかばっかね。
 (向こうの子はリストに入ってないからあの子の分まで奪う訳にいかないし)
「後は……アンタのハートとか!」
 心と書いてハートと読んで下さい。
「……」
「あ、あの、ごめんなさい、ほんの冗談です、冗談だからそんな目で見ないで」
 何かすっごい『やれるもんならやってみろ』的な視線寄越されました。
 えーいこうなりゃヤケだ。
「いいもんもう、こうなったらアンタの睡眠時間奪ってやる!」
「あ?」
「よいしょ、むう狭い」
「って何入って来てんだオメーは!」
「何このベッド、死ぬほどちっさくない?」
「ウルセェ!!」



 そして結局寝られてますしね。
「あうう畜生腰痛い……何でこのベッドこんな小さいの……」
 成長期だから伸びるだろうとかそういう希望全て放棄した大きさだよこれ。
「……あ」
 そして気付いてしまった、コスチュームの上着をしっかと握り締める小さな手。
「……まさか」
 まさか、ねえ。
 だってあれは冗談で言ったのであって、そうだよこいつだって変な目してたじゃん。
「……どうしよう」
 とりあえず上着は脱いで置いていくしかないとして(寒い……)
 これってやっぱり、あたしが奪った事になっちゃうんでしょうか。



ムヒョはよいツンデレだと思います
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