「アニキ、大変だ!」
「何だ、騒がしい……ちったぁ寝かせろよ」
「それ所じゃねぇ、奇襲ですぜ!」
「何っ……?旗印は!」
「そ、それが、信じられねぇ事に……」
「はっきりしろ!」
「……も、毛利……」
予想外の名に沖を見やれば、確かに船の上には毛利の参星がたなびいている。
豊臣や周辺の軍に組したという話も聞かない。
正真正銘中国の毛利軍だ。
大将を討たれた弔い合戦、にしてはどうも統制が取れすぎている。
誰が指揮を執っているのかと甲板を見れば、見慣れた緑の甲冑が見えた。
「何っ……!」
毛利元就。
あいつは確かにこの厳島で討ち取った筈だ。
「ア、アニキ、こりゃあ一体……」
「……成程、死んだのは影武者って訳かい」
勿論倒した時に首実検はした。
顔は確かに似ているいう結論だったが、全員戦の直後で興奮していた時だ。
そんな時には例え顔付きが別人でも、鎧さえ着ていれば騙されたりする。
普段から目立つ装束を着ている大将なら尚更だ。
毛利も当然それを見越してその男を身代わりに立てたのだろう。
そこまで考えて、元親は急にあの影武者が恐ろしくなった。
彼は完全にその男を毛利元就だと思っていた。
故に彼に対して、日頃思っていた事も全部ぶつけたのだ。
氷の面の下はどうなっているとかその内心も凍りつくぜとか、
『あんたみたいなのに部下はどんな気持ちで付いて来てるんだ』とか。
しかし彼はそれに動揺する事なく、自分の主君そのものの受け答えをしてみせた。
あの場面での影武者は完全に捨て駒でしかない。
それは命を下された方も分かっていただろう。
しかし彼には主君の命令で無理矢理死地へ送り込まれた風は微塵も無かった。
背筋を真っ直ぐに伸ばして立ち、元親の話を黙って聞き、
兜の下から彼を睨み返し、たった一言彼に言葉を返して、そして死んだ。
『我を理解出来る者は我だけで良い』
あれは一体誰の言葉だったのだろう。
言葉面そのものは、何時か毛利元就が元親に発した言葉だった。
しかし今は毛利の声ででは無く、今にして思えば全く別人の誰かの声で彼の耳に残っている。
別にイメージをまるっきりあそこからぱくった訳ではない……筈です