シリフ霊殿
Schild von Leiden

種はお日様の愛で芽吹く
 いきなり走り去って行った女を一先ず他の者に負わせ、
 不躾を承知で部屋に入ると、床の真ん中で我等が主君が一人首を傾げていた。
「元就様、あの女は一体……」
「我は知らぬ。いきなり戸を開けて逃げて行ったのだ」
「はぁ、いきなりですか」
 一瞬あの女が間者で、殿の命を奪い損ねて逃げたとも考えたが、
 特に取り乱した風も無く平然とした様から見てそれは無さそうだ。
 ならば何故突然に、と考えている所へふと当人の呟きが届いた。
「折角室にしてやろうと思うたに」
「……室にすると仰ったら逃げたのですか?」
「うむ……」
 それでは余りの抜擢に恐れ多くなったのだ。
 捕まえてよく言い含めてやれば、今度は逃げる事はすまい。
「それでは私めがあの女によく言い聞かせて参りますゆえ……」
「我の子種を呉れてやると言ったらいきなり突き飛ばしおってな」
「そりゃそうでしょう!」
「?」
 いくら選り取り見取りの身分とはいえ、何もせず女をものに出来る場合は少ない。
 室にするのであればそれなりの口説きようもあるだろう。
 戦の勝者が敗者の妻を奪う時でさえ連れ帰って言い含めるのが常だというのに。
「……あの女子が哀れでなりませぬ」
「無駄口は良い。言い聞かせるのならば早う追いかけぬか」



デリカシー薄そうという妄想
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