シリフ霊殿
Schild von Leiden

十回クイズ
「毛利をぎゃふんと言わせてやりたい」
「は?」
 お弁当のカニさんウインナーを落としそうになる程間の抜けた台詞だった。
 何て顔すんだよと言われたから多分あたしの顔も相当間が抜けていたんだろう。
「ごめんチカ、あたしにも分かるようにきっちり順序だてて説明して」
「毛利の奴に腹が立つから何とかして恥をかかせてやりたい」
「あーうんそう、あんたの頭で出来るかどうか疑問だけど頑張ってね」
「てめえここまで言わせといて協力する気皆無かよ!」
「そりゃあ」
 カニさんウインナー食べたいですし。
 あんたと毛利の反りが合わないのなんて今更だし。
 にも関わらずあんたが未だにぎゃふんと言わせてやりたいなんて言い続けてる、
 つまり今まで一回も言わせてやれてないというのはひとえにあんたが馬鹿なせい。
 あたしのせいじゃない。
 故にあたしが何かしてやらなきゃならない義務は無い。
「んな固い事言うなよ〜。俺達、友達だろ?」
「友達ではあるが共犯では無い」
「お前だって毛利の事キ毛利とか言ってたじゃねえか」
「いや、別にあんたほど嫌いって訳じゃないし」
 良いじゃんキモい毛利だからきもーりですよポケモンとひっかけてんだよ。
「今度何か奢るからよ!」
「よしその言葉忘れるな」
 自分でも驚くほどあっさりとあたしは箸を置いた。
 いやなに、今月ちょっとピンチでね。
「何?要は毛利が恥でもかけば良い訳?」
「ああ、俺ァあの澄ました面が嫌いでよぅ……
 ありゃ絶対自分以外の人間屑だと思って「うん分かった能書きは良い」
 要はあの澄ました顔が崩れるのが見たいんですね。了解。
 恥をかかせれば良いっていうなら穏便に済ませる方法はいくらでもあるし。
 弁当箱の中に残してきたカニさんウインナーに後ろ髪引かれながら席を立つ。
 ごめんねカニさん、後でちゃんと食べてあげるからね。
 絶対チカの胃袋になんか納まらないでね。



 毛利は自分の席で文庫本を読んでいた。
 いつも思うがこいついつ食事摂ってるんだろう。
 そんなもん摂らなくても太陽光で十分まかなえるんだろうか。
「毛利、毛利、ちょっと良い?」
「何だ」
「みりんって十回言って」
「……は?」
 毛利は文庫本から視線を外してあたしの方を見た。
 あ、その目は絶対あたしの事馬鹿かこいつって思ってるな畜生め。
「良いからみりんって十回。はいどうぞ」
「言って何の意味があるのだ」
「いんや単なる滑舌と反射能力のテスト。はいどうぞ」
 味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂。わぁ全部漢字だ。
「これで良いか」
「はいじゃあ質問、鼻の長い動物は?」
「麒麟」

 あ。
 はっと開かれた唇は、多分そんな感じの言葉を紡ごうとしてたんだと思う。

「わーいわーい引っかかったー答えは象でしたー」
「〜貴様っ!」
「えー何ですかー単なる滑舌と反射能力のテストですよー?」
 毛利は顔を真っ赤にしてこっちを睨んでいる。 
 何だ、こんな子供だましに引っかかったのがそんなに悔しいのか。
 まぁあたしも悔しがるだろうと思ったからやったんだけど。
 これでいい?とチカに視線を送ると、びしっと突き立った親指が返って来た。
 これで満足するあんたもあんただよね。
 とりあえずひとしきり笑ってあたしも満足した事だし、
 今度ケーキバイキングでも奢ってもらおうと思いつつ踵を返……
「待て」
 せなかった。
「……何」
 制服のスカート掴むのは止めてください破廉恥です。
 あとその表情怖いです悪鬼羅刹のようです。
「貴様、もう一度言ってみろ」
「はい?」
「今度は貴様の策には乗らぬ!」
「……いやあの」
 この手の問題ってやればやるほど引っかかる確率低くなるんだよね。
 だから出来れば一回騙したらさっさと退散した方が、
「言ってみよ」
「え、ええと、じゃあシャンデリアって十回」
 シャンデリアシャンデリアシャンがぶり。
「……」
「……」
 たっけて神様。



天然かあほのこか迷う
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