戦勝の宴が一段落した頃、元就様が密かに私の寝所へおいでになった。
今日の戦はかなり際どい勝利で、本陣のすぐ傍まで敵が攻めて来たと聞く。
私には何も聞かされていないけれど、もしかすると元就様も手傷の一つや二つ負われたかもしれない。
その所為か表情も心なしか厳しく……ああ、それは何時もの事だけれど。
「先日、其方の実家から送られてきた数珠があったな」
「ええ……はい、元就様に差し上げたものですよね。それが何か?」
確か実家の近くにある寺の、空海ゆかりの品であった筈だ。
仏道に篤い両親が送って来たものを、私が元就様に差し上げた。
最初は貰った人間が持てば良いと言って受け取ろうとなさらなかったけれど、
私は元就様に買っていただきましたからと言ったら渋々受け取って下さった。
それが何か、と首を傾げると、元就様は黙って懐から小さな巾着を取り出し、
布団の上でそっと中身を広げて私にお見せになった。
「まぁ……」
細かい彫刻が施された美しいそれは、間違い無くあの時私が差し上げた数珠だ。
ただし数珠は繋ぎ止める紐を失い、ただの玉となって布団の上に転がっている。
「今日の戦の時に切れた」
元就様が少しずつして下さったお話によると。
今日、戦の最中に、敵兵に切りつけられた事があったらしい。
まともに喰らえば相当の深手だった筈が、何故か殆ど痛みが無い。
見ると、自分の代わりにこの数珠が刃を受け散り散りになっていたのだという。
「……すまなかった」
小声で元就様が言うのが聞こえた。
「何がでしょう?」
私は数珠だった玉を再び集めて仕舞いながら答える。
「これはいざという時貴方様の身代わりになってくれる様に願をかけたもの。
代わりに貴方様のお命が助かったというのならば、冥利でございます」
「そうか」
元の巾着に収まった玉を受け取って元就様が呟く。
「折角貰った物ゆえ、出来るだけ永く身に付けておくべきと思って居ったのだが……」
「まぁ」
普段の元就様らしくない言葉に思わず笑みが零れた。
「では、次の戦も無事でありますように、また何か差し上げなくてはなりませんね」
身代わりの云々がお寺で売っていたので