壱.
かなり不味いヘマをやった。
何処でヘマしたのかは分からない、ただ気が付いたらヘマをやっていた。
それが戦というもの。
とりあえずヘマに関しては己の力量を呪う他無いとして、
(ヘマヘマ言いすぎて自分でも凹んできたし)
まずはこの窮地をどう脱出するか、だ。
あたしを取り囲んでいる敵兵はざっと数十、一人では流石にちょっと厳しい。
援軍は呼べるけど、後で役立たずめとあの君主に散々罵られそうだ。
こうなったら多少の傷は覚悟で無理矢理血路を開いて……やれるならとっくにやってるか。
とすると後出来るのは神頼みくらい。
例えば何か唱えるとすごく強い味方武将がやって来て敵を蹴散らしてくれるとか。
その人が実は神仏の化身だったとか。
しかし残念な事に日頃の不信心が祟って念仏一つまともに思い出せない。
祝詞も同じく。つーか唱え方知らないし、あれ。
思い出せるものといえばあれしかない。この間読んだ南蛮の物語。
確か何か呪文を唱えると、杖の先から何か出て来て主人公を守ってくれるんだ。
あれ出せたらすごい格好良いと思うんだけどどうだろう。杖は無いけど。
「えーっとあれ……ナントカカントカパトローナム!」
というかこれも呪文ド忘れしてるしね。良いよもうどうせ杖からして無いんだから。
「貴様、気は確かか?」
「すいませんちょっと取り乱しました」
実際は取り乱したどころの騒ぎじゃないけど。
「……あれ?」
「どうした」
「……いえ、何でも」
まぁ、この人も一応神仏の、化身……か?日輪の申し子とか言ってるし。
一応すごく強い味方武将な事には変わりないし。武将というかもう大将だけど。
「行くぞ。このまま城を落とす」
「あっはい!」
そういえばあの呪文って何を召還するんだったっけ。
弐.
お月見です。
月見団子です。
中秋の名月は毎年雨で見られないのが普通だって聞いた(というか漫画で読んだ)けど、
今夜は綺麗に晴れて、蒼いお月様が静かに照っています。
その辺に生えてたススキ、手作りの月見団子、新聞紙で折ったお三方。
質素極まりないけど、個人的にはこういうのも良いかなーと。
「うーさぎうさぎー 何見て跳ねるー……」
歌ってみたけど都会には兎なんて居ないもんなー寂しいね。
居ても跳ねられやしない檻の中。まるで絵に描いた餅。
居ないものの歌を歌うのは悲しくなってくるから止めよう。何か他のもの無いかな。
「おーくらおくらー 何見て跳ねるー……」
待て、何だそれは。
いくらぐるっと見回したら特売チラシにオクラがどアップになってたからって、
兎の代わりに何でオクラにするんだ。いや、語呂良かったけど。
「歌うの止めよう……あれだ、お団子でも食べて気を取り直して……」
慌ててお三方に伸ばした手がぴたりと止まる。
「む?」
「……すいません何やってらっしゃるんでしょうか」
何時の間に現れたのか、お三方の団子を一つずつ減らしてくれている男の人。
縁側がら空きで確かに無用心だったけど何処から入って来たんだろう。
というかすごい勢いでお団子が無くなっていくんですが。
美味しいですかそうですか。
参.
「……で?」
「だからあの……召喚呪文の練習中だったんです」
「それは聞いた」
「呪文を間違えたんです」
「それも聞いた」
「間違った呪文で貴方を召喚してしまったんです」
「聞いたと言って居ろう」
うう、じゃあ他に何を説明しろと。
もうMPゼロなんで明日まで呪文は唱えられませんとか言えと。
「貴様のような初心者に召喚された事は不本意だが、契約は履行せねばならぬ。
契約に従って貴様の敵に日輪の裁きをくれてやる。さぁ敵を指定せよ」
「だから練習中だったんですって敵なんか居ませんってばぁー!」
しかも今現在人間関係は良好です別に倒して欲しい人間も居ません!
あ、でも先生倒したらテスト延びるかなっていやいやいやいやいや。
「契約により敵に攻撃を加えるまでは還れぬ。敵が出来るまで世話になるぞ」
「そっそんなぁ!?」
連載にしようとして設定とプロットで飽きた話