夜中、足の痛みで目が覚める。
先の戦で受けた矢傷の所為だ。
膝下の部分に深々と矢が刺さった訳だが、矢を抜いても鏃だけが抜けない。
数日経った今でもそれはずきずきと鈍い痛みを訴えている。
一応俺の精神衛生上の事を考えて布で覆っているが、一応毎日洗っているとはいえ膿んで酷い有様だ。
このまま行くと傷口から腐っていくから、抜けないようなら足ごと切らねばならないと医者に言われた。
とはいえ数日放っておいて勝手に抜けるならとっくに解決してる訳で。
今は毛利軍クビになったらどうやって暮らそう、と悩む日々だ。
ぶっちゃけ稼ぎ頭だし。
少しでも痛みを和らげる為に寝返りを打つ。
打った次の瞬間悲鳴をあげた。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
「何だ、起きておったのか」
いやいや、起きておったのかも何も!
何時の間にか自軍の大将が枕元に座って居たなどと誰が思うだろう。
しかも寝返りを打った瞬間目の前にどアップになる位近くに。
思いきり凝視してしまった。元就様と超目が合った。
「怪我をしたそうだな」
とりあえず布団の上に半身を起こした途端元就様にそう言われた。
「ええまぁ、ちょっと不手際で」
「見せてみよ」
「……は?」
「傷口を見せよと言うておる」
「はあ……」
訳が分からないまま布を解き、膝の傷口を見せる。
うわ、つられて覗き込むんじゃなかった。
自分のものとはいえ、腐りかけた傷口というのは中々にグロい。
「……深手なのか?」
まじまじと傷口を眺めていた元就様がぽつりと言った。
傷口そのものは大きくはないから、そう酷いものには見えないんだろう。
そもそも矢の一発で寝込むというのも普通ならおかしい。
とはいえ黙っている訳にもいかないので渋々説明する。
「鏃がまだ残ってるんで、そのうちそこから腐って来るんだそうです。
数日中に切断とか言ってましたから、今度の戦には参加出来そうもありません」
すいません、と言って頭を下げると、これからの不安がまたどっと湧いてきた。
当分俯いていたいのを叱咤して顔を上げると、元就様はこちらを見向きもせず再び俺の傷口に見入っていた。
あれ、俺が頭下げたの無意味ですかもしかして。
「……ふむ、大体理解した」
しばらく経ってようやく元就様が俺の方を向いた。
「要はこの鏃が抜ければ良いのだな」
「まぁ、簡単には抜けないから苦労してるんですけどね」
「では動くな」
「は……?」
命令と同時にがしっと足を掴まれる。
俺の膝と足首を押さえつけたまま、元就様はやおらその傷口に食い付いた。
いや正確には、吸い付いた、か。
「ぎゃ、」
「動くなと言ったであろう」
思わず身じろぐとより強い力で押さえつけられる。
痛いです元就様、輪刀振り回す握力は痛いです。
傷口からはじゅるじゅるという生々しい音が聞こえて来るが、耳を塞ぎたくても動く事が躊躇われるので出来ない。
やがてがちっという固い音がして、元就様が傷口から離れる。
ねっとりとした膿で汚れた唇の間に、小さな金属の欠片を咥えていた。
「出陣の日程が数日延びた」
元就様はそう言って、布団の上に膿と鏃を吐き出した。
「今宵はそれを知らせに参ったまで。次の戦まで精々養生しておれ」
俺は相変わらず呆けた顔ではぁ、と言いながら、何でもないような顔をして手桶で口を漱ぐ元就様を見つめていた。
史実ネタらしいんですがほんとかな