きゃわきゃわと耳元で何かが騒ぐので目が覚めた。
つまみ上げてみると、森の入り口で見張りをさせていたバウムである。
どうやら何かを伝えようとしているらしいが、彼の鳴き声は未知の言語のようでルシファーにはさっぱりわからない。
「フェル、悪いがこれが何を言っているのか教え……」
こういう言語を勘で読みとくのが得意な相方に声をかける。
が、先刻まで彼が寝ていた所には少々乱れた寝具があるばかり。
「おい、ルシフェルは何処へ行った?」
再び指でつまみ上げた物体を凝視して、そこでやっとバウムの小さな手が必死に外を指差しているのに気付いた。
「まさか、外へ出て行ったのか?」
尋ねれば、頷く。
「……あの、馬鹿がッ!」
役に立たない見張りを放り出し、ルシファーは外に飛び出した。
勿論、天然ボケな相方を探す為である。
ルシフェルは、人を疑う事を知らない。
良く言えば純粋、悪く言えば単純。
例えば森で密猟者を見かけても、本人が自分は悪人だと暴露でもしない限り、道に迷った遭難者だと信じて疑わないのである。
そのせいで変な目に遭いそうになるのを助けてきたのはいつもルシファーだった。
「貴様、何をしている!」
だから彼が他人と一緒に居るのを見て声を荒げてしまったのも無理はない。
と思う。本人としては。
「あ……す、すみませっ……」
しかし幸か不幸か、今回ルシフェルと会話をしていたのは到って普通の少女。
この森に入って来られる以上ただの人間の少女かどうかは疑わしいが、
少なくともルシファーにいきなり怒鳴られる謂れなど無かった事は確かである。
突然の出来事に驚いたらしい少女は見る間に両目に涙を溜め、ついにはか細く声を上げて泣き出してしまった。
「……あ、その」
「ルシファー!」
ぺち、と額を叩かれる。
白い髪と肌をした相棒が、珍しく怒ったような表情でこちらを見つめていた。
「この子に乱暴はしないで下さい。メテオかけますよ?」
「……すまない」
片割れの魔法の威力とコントロールの利かなさを知っているので素直に謝る。
レーザービームを蛇行させられる魔法使いなど、彼は彼の相棒を置いて他に知らない。
「ほら、貴女ももう泣かないで。今日は向こうへ花を摘みに行くのでしょう?」
「……はい」
「そんな事を話していたのか」
男女間で交わされる会話にしては少々微笑ましすぎるような気もする。
何というかこう、邪気が無いというか。
彼の分も自分が邪気を背負っているからだろうか。
「そうだ、ルシファーも一緒に行きませんか?スミレがとても綺麗だそうですよ」
「何故私まで……大体外にはうかつに出るなとあれほど」
「うかつじゃありません、ちゃんと考えてます。だから、ね?」
「ね?」
いつの間にか泣き止んだ少女が横からちゃっかり参加している。
先刻までの涙が嘘のようにほんわかと笑う姿は無邪気そのものだ。
似たもの同士とはこういう二人の事を言うのかもしれない。
双方から子供のような視線を浴びせられ、魔王の名を冠した男は遂に陥落した。
「……分かった、行けば良いのだろう行けば!」
「はい」
実はポップンで一番好きなキャラです。次点がおむつの人