小十郎が怪我をしたというから、実兄の頭を踏んづけてまで駆けつけた。
「死ぬなこじゅ!こじゅが死んだらあの畑はどうなるんだ!もうすぐ茄子の収穫じゃないか!
あたし初物くすねて勝手方でこっそり焼き茄子にしてもらう心算だったのに、
いやほらだってこじゅいっつも茄子味噌汁にしちゃうじゃん?
あれあの味噌の味ついてないうっすい茄子があたしどうも苦手でさー……」
「#奈々様」
ごめんなさい。
目の前に居る小十郎は確かに身体に巻いた布に薄く血を滲ませていたけれど、きちんと生きていた。
話を聞くと、傷口こそ大きいものの傷そのものは浅く、
傷による熱にさえ気をつければ大事にはならないだろうとの事だ。
「何だぁ、じゃあ成実が大袈裟なだけ?あたし危篤一歩手前とか聞いたよ」
よーく考えると危篤一歩手前ってのもどんななんだろう。成実相当テンパってるとみた。
まぁしょーがないか。
怪我の程度がどうあれそもそも小十郎が怪我をする事自体が大事件だろうし。
「#奈々様にご心配いただけるとは、この小十郎光栄の至り……」
「あァそんな堅苦しい口上いらないってば。こじゅの心配しなくて誰の心配するの。
あたしにとって小十郎はもう父上みたいなもんなんだから、これぐらいさせてよ」
こじゅ……何、何で固まんの。
うっかり何か妙な事口走りましたか、あたし。
「父上……そうか、父上か……は、は」
あっすいません、いつもの振る舞いを見てるとつい。
「#奈々テメェ……俺の頭を踏んでくたァ良い度胸じゃねェか」
「政宗様」
「あれま梵、遅かったね」
「テメェが俺の頭踏んでったからだろうが!」
睨まれた。
良いじゃないか成実だって梵って呼んでるのに何であたしだけ駄目なの。
兄上なんて柄じゃないし。兄貴じゃこないだの乳首とかぶりかねないし。
というか頭踏まれたのはあたしが悪いんじゃない。梵が悪い。
あたしが急ぐ為に陣幕飛び越えようとしてる丁度その矢先にかがむのが悪い。
踏み台にするのに丁度良い高さにかがむのが悪い。あたしは何も悪くない。
「とにかくだ」
梵が珍しく真面目な顔で小十郎の肩を叩いた。
「命があって何よりだ。……養生しろよ」
「はっ」
小十郎も神妙な顔で応じる。
……あれだよなーこれ。
何も考えずに生きてて、戦にだって遊びの延長で参加してるあたしには絶対出来ない表情なんだろうな。
「……まああれだ、梵」
悔しいからあたしも出来る限り真面目ぶった顔をして梵の肩を叩く。
「Ah?」
「とりあえず小十郎の怪我は、命に別状は無いんだよね」
「まあ、医者の話じゃそうらしいな」
「でもとりあえず養生しろって言われるぐらいだから数日は動き回れないよね」
「……まぁな」
「て事はさ、数日の間こじゅのお説教が少なくて済むって事じゃない?」
あたしの言いたい事が分かったのか、梵は真面目な顔を崩してにやりと笑った。
「OK、つまり例のアレは今夜決行なんだな」
「その通りっ」
「……政宗様、#奈々様、一体何をなさるおつもりで?」
「いやまあちょっとね」
こじゅには言わない。
こっそり食べ時の茄子の収穫を終わらせておこうと梵と計画してた事。
別に怪我してるからとかそんな理由じゃなく、
単に焼き茄子用を幾つかその中からくすねておこうってだけなんだけど。
小十郎はちょっとくらい怪我してる方が萌えます