「土方はん土方はん、今日は誰をご指名?」
「俺はやらねーよ。近藤さんの付き添いで来ただけだ」
「つれんお人やわぁ。奥さんでももらわはったん?」
「嫁はいねぇ。……候補はいるけどな」
「あら口惜し、取られてしもうたわ」
「勝手に人を取り合うんじゃねェよ。
用が済んだらさっさと戻るぞ。あいつが待ってるからな」
酒もそこそこに店を出た。
背後から断末魔が聞こえてくるが気にしてはいられない。
どうせあの女の、いつものブチ切れだろう。
それより早く帰って彼女に会おう。
会って、拗ねているであろう所を慰めてやるのだ。
普段から飄々としている彼女の珍しい所が見れるかもしれない。
めくるめく甘いイメージの世界へ飛んでいった土方は、自分の顔が大変ニヤけているのに気付いていなかった。
「おう、今帰っ……、」
「あ、土方さん。おかえんなせェやし」
酒を飲んでいなくて良かったと思う。
飲んでいたら自制が利かず、即座にこの男を殴り飛ばしていたに違いない。
「……ンでここにいやがんだ総悟……」
「おれが屯所にいちゃいけねェんですかィ?」
「何でお前の部屋でもねェのにいやがるっつーかお前今日夜勤だろーが!」
「出てく前にその#奈々姐さんに捕まったんでさァ」
ちなみに夜勤は山崎に代わってもらいやした。
台詞の後半部分はもはや土方の耳には届いていなかった。
「……何だと?」
「土方帰って来るまでここにいて〜ってね。
クールでキュートな総悟ちゃんの魅力に皆メロメロなんでさァ。……と」
半歩退いた目の前を、土方の鈍く光る刃が薙いで行く。
「あっぶねぇなァ土方さん、俺じゃなかったらバッサリだ」
「テメェ……あいつを何処にやりやがった」
「何でィ人を誘拐魔みてェに。姐さんなら土方さんの部屋ですぜ。
俺にはちゃーんと彼女がいるって話したらショック受けちまっ……うお!冗談ですって冗談!」
酒は飲んでいない。飲んでいないはずなのに何故か頭がくらくらする。
冗談通じねェと嫌われやすぜ〜とか何とか聞こえて来るが激しく無視だ。
仮に冗談だとしても何処までが冗談なのか、肝心の相手が沖田ではさっぱりわからない。
イライラする自分を抑えつつ、土方は自室の扉を開いた。
「ああお帰り。何だ、帰ってきたんだね」
……余計イライラが増しただけだったが。
人の布団を勝手に引っぱり出して横になり、菓子を食いつつテレビを見ている。
慰めるほどいじらしく傷心な様にはとても見えない。
「……一応聞くが何やってんだ」
「見て判らない?ゴロ寝」
「何で俺の部屋でやるんだよ」
「だってあたしの部屋散らかってるんだもん」
「……俺が掃除でも何でもしてやるからとっとと出て行け」
「わーありがとうトッシー優しいー」
ああ全く酒を飲んでいなくて良かった。
飲んでいたら例え自分の惚れた女であっても殴り飛ばしていたに違いない。
「すごーい、綺麗になった!」
「綺麗になったってお前」
「すごいすごーい、布団も乾いてる!」
「乾燥機かけたからな」
布団を乾燥機にかけなければならない状況というのがまず信じられないが。
飲まなかった分の疲れがどっと押し寄せてくるのを感じながら溜息を吐く。
「トシ」
「……んだよ」
「折角布団気持ちよくなったし、一緒に寝よう?」
「……」
この野郎。
土方さんは苦労人