「人に恋はするなよ」
俺が初めて彼女の事を話した時、イギリスは怒りも喜びもせずにただそう言った。
「俺達は人じゃない。俺達がこうして生きているその横で、そいつはあっという間に老いて死んでいくんだぞ」
虚しいだけだから止めとけって、虚しくなるなんてやってみなくちゃ分からないじゃあないか。
俺が戦争に行くよと言った時、20にもならなかった彼女は寂しそうにそう、とだけ答えた。
「貴方はお国だから死ぬ事はないでしょうけれど、帰って来るまでパイを食べてくれる人が居なくて寂しいわね」
出発してからそうか俺がもし国でなかったら映画みたいな事が出来たんじゃないかと思ったけど、
映画と現実を比べてみれば断然こっちの方が良いに決まっている。
国と人だって良いじゃあないか、と笑っていると、またイギリスが一言「泣いても知らねえぞ」と言った。
帰って来ると彼女は俺の記憶より少し大人びていて、アップルパイを焼くのも少し上手くなっていたけれど、
彼女はますます綺麗になっていたからそれはそれで俺は一向に構わなかった。
その後ロシアとの事で上司と居るのが辛くなった時も、彼女は笑ってこう言った。
「そんなどうでも良い事は置いといて、私特製のアップルパイでもどう?」
彼女は以前より皺が増え、心なしか背も縮んだようだったけれど、
俺は彼女を愛していたからやっぱりそんな事はどうでも良かった。
「それでもそろそろ覚悟はしておいた方が良いと思いますよ」
日本は犬を撫でながら冷めた声で一言そう言った。
「例え貴方への気持ちが変わらなくても、人は年をとれば自然と死を意識するものですから」
何だい皆して意地悪ばっかり、そんなに俺と彼女を別れさせたいのかい。
そんな事を彼女に話すと、彼女は白くなった髪を撫でながらにこにこと笑った。
「その事なんだけど私一つ考えたのよ。記憶や考え方までそっくりな、私のクローンを作ったらどうかしら」
「何だいそれ、映画みたいでカッコイイじゃないか!」
「でしょう?そしてクローン技術を奪う為、各国のエージェントが私と貴方を追ってくるのよ」
「Waoooo!Coooool!!」
何だ、やっぱり何の問題も無いじゃないか。
竹林で寿命話が出る前のことですので大目に見て下さい