「……あのさぁ」
いや、こういう話を切り出すのも何だか負けた気がして嫌なんだけどさ。
「あんた、飛距離落ちた?」
背中に生えている羽が心なしか元気無いような気がする。
常識を踏まえて言うとゴッドノウズの時の高度とか滞空時間とかその辺が。
出来るなら常識は踏まえたい。この必殺技群全て演出という言葉で片付けたい。
この羽を認めたが最後、ペンギンもオオカミもワイバーンもイフリートも認めなければならない。
培ってきた十数年分の常識を全て超次元仕様に変更しなければならない。
それはまぁちょっと、あたし的にはまだ心の準備が出来ていないので。
「……#奈々は鋭いね」
アフロディは儚げに微笑んでそう言った。
ああ、やっぱり羽云々とかそういうのはスルーする方向なのか。
「流石にいつもボクの事を見ているだけはある」
「あたかもあたしがあんたに片想いしてるみたいな言い方しないでくんない」
いや、確かに見てましたけどね、羽を。好奇心的な意味で。
「でも大丈夫、君が心配するような事は何も無いよ」
……そうですか。
まぁ、貴方の背羽先の感覚につきましてはあたしは何も申し上げられませんので。
勿論そんな言葉一つで何もかも納得出来る訳が無かったけど、
だからといってあたしに何かをどうこう出来る訳でも無かったので(したくなかったとも言う)、
とりあえずその時はそれで収めておいた。のだけれども。
「痛っ……!」
数日後、遂に落下という事態にまでなったので、あたしは奴を問い詰めずにはいられなくなった。
つーか落下って事はやっぱり飛んでたんだなあれ。ううむ。
「ちょっと、本当にどうしたの」
「……何でも無いよ」
「いや何でも無いって文字通り翼をもがれたエンジェルみたいになっといてそんな」
「ボクは神だよ!」
「そこじゃねーよ!」
何で今時ニコニコ動画でも見かけるような称号にそんなにこだわるんだよ!
「明らかに飛べなくなってるじゃん。何、堕天でもしたの?」
「キリスト教じゃないんだからさ」
それもそうだ。
じゃあ太ったとか?と言おうともしたけど、別に見る限りそんな事は無い。
むしろあたしの肉を移植させたい位のプロポーションだ。
「鬼道のペンギンにガオンとやられたとか」
「ガオンって何?」
「ほんの効果音です」
ペンギンには少々そぐわなかったかもしれない。
「うーん、やっぱきちんと羽診ないと分からないなぁ。ちょっと見せて貰っていい?」
「やだ」
即答かよ。
「言った筈だよ、君が心配するような事は何も無いって」
あたしが言い返すより先に、アフロディはさっさとベンチを立って何処かへ行ってしまった。
明らかにあたしの追及から逃げたように見える。怪しい。
悪化しても知らないからね!なんて憎まれ口を叩く程あたしは可愛らしくは無いので、
とりあえずアフロディの行った先を見つめながらぽつりと呟いた。
「羽をやられて飛べませんって、故障扱いになるのかなぁ……」
キャラバンでの旅は基本野宿だ。
まぁ人数多いし仕方が無い。もう慣れた。
精々枕が硬くて毛布が薄いくらいだ。練習で疲れていれば気にする間も無く眠れる。
「うー枕枕」
真っ暗な中手探りで吹っ飛んだ枕を探していると、ぽふんと目の前に柔らかいものが置かれた。
「はい」
「あ、ありがと」
ぽすん。うわ柔らけー寝心地良いこれ……
「……クッションだよ!」
「そうだよ?」
「……何で此処にアフロディがいんの」
女子の寝るスペースですよ此処は。
「これ持って来たんだ」
「クッションを?」
「布団もあるよ」
もふぁ、と頭から布団が被せられる。
わぁ柔らかい何これ、普段家で使ってるのより柔らかい。
ていうか今ちょっと思い出したんですけどね、
「アフロディ」
「何?」
この人、キャラバンに乗る時こんな大きな荷物持ってなかったよね。
「これは羽毛ですか」
「……」
黙るな。
気まずくなって俯くならまだしもこっち向いたまま笑顔で黙るな。
「貴方のゴッドノウズから引っこ抜いた羽毛ですか」
「……」
黙るなっつの。
「何でこんな事をしたんですか」
「……聞きたい?」
「うんまぁ割と」
好奇心ってやつで。
頷くとアフロディは布団ごとあたしに抱きついて笑顔で言った。
「ボクからの、愛」
「……」
いらないよこんな自虐的献身愛。
というかあたしはこんな神に恩返しされるような事を何かしただろうか。マジで。
鶴の機織風愛情表現なんて聞いた事が無いよ。
反物(服)ならともかく愛の証に布団は無かろう。幾らなんでも。
「ええと……あたしどうすれば良いんでしょうこれ」
「貰って良いよ?」
「違う布団じゃないこの後の反応的な意味で」
「そうだなぁ……一緒に寝てくれたら嬉しいな」
「……まぁいいですけどね、布団でかいし」
あの羽抜きたい、という願望から