シリフ霊殿
Schild von Leiden

神のご加護をくれてやる
「じゃあ、ボクはこれから試合だから」
 知ってるよ、マネージャーだもの。
 出場する選手にドリンク渡しておにぎり渡してコンディション整えたのあたしだもの。
 ていうか目の前どばーんとサッカー場だもの。嫌でも分かるよ。
 で、こいつはそんな試合開始直前にあたしの横に腰掛けて何をしてるんだろう。
「ここベンチだけど」
 一応確認しておく。案の定知ってるよ、と返って来た。
「これから試合なんじゃないの」
「そうだよ」
「早く行きなよ」
「まだ大丈夫なんだ」
「……」
「……」
 何がしたいんだ、と視線で無言のメッセージを送る。
 通じて欲しいけど通じる事を期待してもいない。
 エスパーじゃあるまいし、部員一人一人の思考回路なんて把握しきれない。
 こういう空気を読む系に気付かない程度の鈍感という可能性もある。
 加えてこいつは常人とは思考が根本的に違う所があるし。
 ……いや、自称神だからとかじゃなくて。
 本物の神様の思考はもうちょっとまともだよ、きっと。そう信じたい。
「……」
 メッセージが伝わっているのかいないのか、拗ねたような表情でこちらを見てくる。
 顔は綺麗だ。が、頭の中身が割とお粗末な感じなので話にならない。
 少なくともこいつはそういう奴だったと把握している。
「何」
 仕方が無いので声にした。後半カットしちゃったけどまぁ通じるだろう。
 メッセージを受信した先方は先刻よりもっと拗ねた顔になって、そして言った。
「試合に臨むボクに応援の言葉は無いのかい?」

 ねーよ。

 言いそうになったけど寸前で止めた、あたし良い子。
「先刻言ったじゃん」
 代わりにそう言ってつっぱねる。
 出場する選手にドリンク渡しておにぎり渡してコンディション整えたのあたしだもの。
 渡す時に頑張っての一言くらい言っている。流石にそこまで冷たいマネージャーじゃない。
「……」
 それなのにどうしてこいつはこんなに不満そうなのか。何が不満なのか。
 だって普通マネージャーと選手と距離ってそれくらいじゃないか。
 甘酸っぱい感情が必ず発生すると思う方がどうかしている。
 それも双方に、なんて。



「おーいアフロディ、そろそろだぜー」
 チームメイトから急かす声が入る。
「……ああ」
 心なしか名残惜しそうに応えて席を立つ。
 きっと帰って来たら勝ったから労えだの点を入れたから褒めろだのうるさいんだろう。
 こいつの扱いだけは毎回面倒だ。
 皆に分け隔てなく接するというマネージャーの鉄則をちっとも理解しない。
 毎度毎度いなすのにこちらがどれだけ苦労してる事か。
「……ねぇ」
「何だい?」
 まぁ、でも。

「Bless you」

 そのしつこさに免じてこの位のサービスはしてやっても良いと、思う訳だ。



仲間に入れる説き余りに苦戦したので腹が立って鹿に尻を20回ほどどつかせました
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