まさかこんなにも容易く達成されるとは思っていなかった。
やってみたいと申し出て、当然断られて、ちょっとくらいは踏みとどまってやっぱり拒絶されて、実行に移そうとして押しのけられて笑顔で罵られて。その程度の反応は当然貰うものと予想していたから、この願望が叶う日が来るとは考えもつかなかった。
今私の目の前には、全身を雁字搦めに縛られた無様な格好の男が転がっている。
これだ、確かに私はこれがやりたかった。けれどやり遂げたにもかかわらず心は晴れない。何故なら彼は一切抵抗らしい抵抗をしなかったからだ。
事実、最初は手首と足首だけのつもりだったものが、余りにされるがままなのに腹が立ってあれこれと追加してしまった。股間を縄が這った時だけ一瞬びくりとして、それだけは面白かったけれど、後はただ虜囚を通り越して芋虫のようになった180センチの巨体をぼんやり見つめているだけになったので、つまらなくなってやめた。
抵抗して欲しかった訳ではない。それでも抵抗されない筈がない。この疑問がある限り、私の心はきっと晴れないのだ。
目隠しを外してみる。閉じていた瞼が開き、瞳孔が瞬きと共に動いて私に焦点を合わせた。
「何考えてるの」
彼は赤い眼をきゅうと細めて笑ってみせた。何か考えている。
それ以上応えないので猿轡を外すと口元も緩やかに弧を描いている。同じ質問を繰り返すと、唇を舌で湿らせながらゆっくりと呟いた。
「貴方が私にどんな感情をもってこの行為に及んでいるのか考えると、とても興奮します」
思わず腹を蹴り飛ばすと、苦しそうに咳込みながらそれでも笑っていた。
へ、へんたいだー!